「新潟県の大沢峠の麓にある自販機コーナーも印象に残っていますね。元は商店だった建物のようですが、コインスナック・オートスナックのような場所で、地元のおじちゃんたちが軽トラで乗り付け、タバコを吸いながら井戸端会議する集会所みたいになっていたんです。こういう溜まり場に食品自販機などと並んでエロ本自販機もかつて置かれていたわけで、その意味ではエロ本自販機のありし日の姿を想起させるような光景でした。2014年の取材時は3台の自販機のうち2台が現役で稼働中でしたよ」 「ちょっと賑やかな繁華街を抜けて急に寂しくなった絶妙な立地にあることが多いんですよ。人や車の通りはそこそこ多いけど、目立たない場所というのがポイントのようですね」 　ここまで巡ってきたエロ本自販機のエピソードを明かしてくれた黒沢氏に、現在都内で現存する自販機コーナーを案内してもらった。訪れたのは京成電鉄本線・堀切菖蒲園駅。日暮里駅から普通電車で10分という立地だ。駅の改札を出て徒歩約5分。唐突に紅白の文字で書かれた“いかにも”な看板を発見できる。賑やかな駅前からは少し外れてはいるが車の交通量は多く、歩行者がチラホラと行き交う立地だ。 　掲げられた「24HDVDパラダイス!!」の看板は空き店舗を利用した自販機小屋のようで、建物の内と外を仕切る扉やドアはないが、入り口は外から中の様子が覗きにくいつくりになっている。いざ足を踏み入れると、粘っこく湿り気のある独特の空気が体を包みこむ。入り口には運転免許証による年齢確認システムがそびえ立ち、狭い通路に圧迫感を与えている。 「成人向け商品を扱っているので、2000年代以降は免許証による年齢確認のシステムが導入された自販機コーナーも増えました。備え付けの機械に免許証を読み込ませるんですが、機械に吸い込まれた免許証がきちんと出てくるのか、いつもドキドキさせられるんですよね……。年齢確認をしないと購入できない、あるいは時間帯によっては販売をしていない無人の自販機コーナーも少なくないです」 　向かいにはウィーンという低周波音を唸らせる成人向けDVDとアダルトグッズを扱う計5台の自販機が左右に立ち並ぶ。真っ先に目に飛び込んできたのは自販機の中に陳列された劣情を誘うエロDVDのパッケージの数々。蛍光灯の明かりが哀愁を漂わせていて、不思議と外の世界から隔絶された別次元の世界にでも迷い込んでしまったような感覚に陥る空間だ。