なぜか下がっている銘柄に投資の妙味あり
JT(2914)株価3909円(2月14日時点の終値)
ここで思い出されるのは、やはり新NISAが始まり個人投資家から圧倒的な支持を集めているもうひとつの銘柄、
JT(日本たばこ産業 2914)の過去の推移だ。JTは時価総額5000億円以上の銘柄の中では、今でも配当利回り4.8%と一位を維持しており、財務的にも問題がなく、投資家の圧倒的な支持を集めている。しかし、過去にJTは2016年ごろのピークを境に2020年7月末まで長期的に下げ続けた。最安値は1796.5円である。
業績が特に悪かったわけでも、配当が低かったわけでもない。配当利回りは2019年ごろに7%を超えることもあったし、財務は健全で利益率も高かった。しかし、たばこには将来性がないとか、加熱式たばこへの移行が遅いとか、いま思うと、理解しがたい理由を評論家たちはつけていた。要するになんでここまで下がるのか分からなかったのである。その後、2020年、コロナのど真ん中の未曾有の金融緩和によって大量のマネーが株式市場に流れ込んできたことによって再評価され、株価は4000円目前まで上がってきた。2023年中頃までは6%台だった配当利回りは、5%を下回るところまできているが、それでも買われているのである。この株価上昇の流れの中で、減配ということもあったが、それでも長期的に大きく下げることはなかった。
株式は上がることもあれば、下がることもある。それも、内部要因、外部要因さまざまな理由が一度トレンドを作ると、売りが売りを招き、買いが買いを呼ぶことも多々ある。
あおぞら銀行だけでなく、他の日本の大手銀行も米国債券に投資したり、アメリカの商業用不動産に融資しているのだが、今回のあおぞら銀行のように、一気に計上するのではなく、他の利益にまぶして損益などを計上していくから、目立たないだけなのだ。
この決算時期の前後に、
トヨタ自動車の不正問題が次々と明るみに出た。それも主力車に関わることもあり、報道された翌日は大きく下がるのかと思いきやほとんど下がらずにきた。これでトヨタグループは、ダイハツ、日野自動車だけでなく、本体も不正をしていたことになる。しかし、株価が下がったのはトヨタグループで日野自動車だけだ。日野自動車はその株式の50%以上をトヨタ自動車が保有する完全子会社だ。不正問題が発覚した後、大きく値を下げ、主力車はライバルのいすゞにシェアを奪われ、無配ではあるものの、単元株100株を5万円以下で買える。同じトヨタグループでありながら、ここまで評価が低いのは、驚くほどだ。
日産自動車HPより
自動車関連でいえば、
日産自動車(7201)にも注目している。ご存知のように2020年まではさまざまなトラブルや事件の渦中にあった。しかし、その後は着実な経営に戻しつつあり、先ごろ発表された第3四半期の営業利益は65%増にも関わらず、決算翌日には一時前日の株価と比べ11%以上も売り込まれ大暴落した。2月9日の終値は、前日から72円30銭下落して553円10銭である。100株が5万5000円ほどで手に入る。去年は9月20日に高値をつけており712円。そこから考えても、20%以上下がっているのだ。
ここまで下がった理由について、通期販売台数を下方修正したことが影響したと言われる。しかし、売上高、営業利益、経常利益とも伸ばし、PERは5倍、PBRは0.4を下回っている割安株なのだ。さらに1株あたりの配当は15円で、配当利回りは2.7%あるのだが、1株当たり利益は100円を上回っており、配当性向は15%でしかない。他社に比べて非常に低い。つまり、増配余地が驚くほど残されている銘柄でもある。それも、中小型株ではない。ルノーと関係も深く、2030年までには欧州向け自家用車は全てEV車にする方針を出して、クルマ好きに言わせると、自動運転技術など技術力も折り紙付きの日本の自動車メーカーの中では、時代の流れのトップランナーでもある日産自動車なのである。
日産自動車(7201)株価547.7円(2月14日時点の終値)
それが、繰り返しになるが、決算で営業利益65%増を叩き出したにも関わらず、株価が11%以上も売り込まれた。売上高も大幅に増やし経常利益も42%もアップしているにも関わらずである。決算を丹念に読み込むと、最大の理由は中国の景気失速からの販売台数の落ち込みが最大の要因と思われる。大規模な投資によって未来への挑戦も続けている。しかし、これがキャシュフローの落ち込みになっているので、それが原因なのかもしれない。つまり、トヨタやホンダが絶好調なのに比較しても日産がここまで下がっている合理的な理由はなかなか見つけられないのだ。私に言わせれば、売られているから売られるとしか言いようがない。
自己資本比率は30%台と決して高くはないが、倒産の危機にある会社でもないことを考えると、ここまで下がった株価は中長期的には買われると判断し、私は投資を始めた。経営陣が企業価値を上げるためにも、現在の配当性向15%の配当をせめて25%くらいまであげ、増配すれば状況は一変するのではないかとも思う。実は先に書いた、日産の配当15円も5円増配しての結果なのだ。もしも、25円まで増配することになれば、日産自動車の配当利回りは5%ほどになる。高配当銘柄に注目が集まる今の流れの中で、単元株5万5000円前後という買いやすい株価もあって、その時になって初めて、投資家は、日産のクルマづくりの先進性に気がつくのではないかと思ってる。
※株式投資はご自分の判断と責任に基づいておこなってください。
<文/佐藤治彦 チャート/googleファイナンス>
経済評論家、ジャーナリスト。1961年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業、東京大学社会情報研究所教育部修了。JPモルガン、チェースマンハッタン銀行ではデリバティブを担当。その後、企業コンサルタント、放送作家などを経て現職。著書に『
つみたてよりも個別株! 新NISAこの10銘柄を買いなさい!』、『
年収300万~700万円 普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話』、『
しあわせとお金の距離について』、『
安心・安全・確実な投資の教科書』など多数 twitter:
@SatoHaruhiko