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『不適切にもほどがある!』コア視聴率で1位。“急増するタイムリープ作品”が若い世代に歓迎されるワケ

古今の“価値観の変化”がテーマに

『不適切にもほどがある!』がウケているのは価値観の変化まで描いているから。セクハラ、パワハラ、モラハラなどの出現である。価値観は千差万別だから、扱うのが難しい。描くことによって反感を買いかねない。このため、大半のタイムリープ作品は価値観の描写を避ける。だが、このドラマは逃げなかった。だから批判も一部にある。  これに関連して磯山晶プロデューサー(56)はこう語っている。 「『昭和から来たおっさん』が、自分の発言のリフレクションを恐れず、傍若無人に意見を言うことで、令和の人々が『今はそんなこと言っちゃダメなんだよ!』と呆れながらも『でもそれってちょっと真理ついてるかも』と考えるきっかけになるような物語を作りたいと思って企画しました」(公式コメントより)  このドラマは「古い」とされる価値観の中にも守るべきものがあるのではないかという問題提起なのである。主人公・小川市郎(阿部サダヲ)と1人娘で高校2年生の純子(河合優実)が紡ぐ親子愛の形もその1つ。全編にナンセンスギャグが散りばめながら、2人の親子愛はピュアでまるで昭和期の世界。ここまでベタに親子愛を描くドラマはほかにない。

気になる今後の展開は?

 市郞は純子のヘソの緒やお宮参りの写真、抜けた乳歯を巾着袋に入れて持ち歩いている。亡き妻・ゆり(蛙亭・イワクラ)との思い出の品々も。こんな父親は今、まずいないだろう。  この愛情は一方通行ではない。純子も陰ではこう言う。 「(ママが死んだあと)オヤジが笑っちゃうくらいダメになっちゃってさ。毎晩、そこに座って泣いてて。だから今は私がグレて気を逸らしている」(第2回)  古臭いとも言える親子関係だが、2人の姿に目頭を熱くしている視聴者は少なくないのではないか。親子が今、生きているのは1986年。9年後には阪神・淡路大震災に巻き込まれて亡くなる。ありきたりのタイムリープ作品なら、市郞が未来を変えてハッピーエンドとなるだろうが、おそらく脚本を書いている宮藤官九郎氏(53)はそうしない。 「余命9年だ」(市郞、第6回)  市郞は最愛の純子と最良で最善の9年を過ごそうと全力を尽くすと読む。
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タイムリープ作品が急増している
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放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員

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