エンタメ

『不適切にもほどがある!』コア視聴率で1位。“急増するタイムリープ作品”が若い世代に歓迎されるワケ

タイムリープ作品が急増している

 気がつくと、近年のドラマ界ではタイムリープ作品が急増している。日本テレビ『ブラッシュアップライフ』(2023年)や同『最高の教師 1年後、私は生徒に□された』、(同)、TBS『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』(同)と制作が続いた。  少し振り返ると、TBS『テセウスの船』(同)、フジテレビ『知ってるワイフ』(2021年)などがあった。ドラマ界に限った話ではなく、タイムリープ作品の増加は世界的な傾向である。  タイムリープ作品は名作映画『クリスマス・キャロル』(1913年)など古くから存在したが、目に見えて増えたのは2000年前後ごろから。・  まず洋画。『天使のくれた時間』 (2000年) 、『ニューヨークの恋人』 (2001年)、『バタフライ・エフェクト』(2004年)、『ザ・ドア 交差する世界』 (2009年)、『ミッドナイト・イン・パリ』(2011年)――。その後も『TENET』(2020年)、『アダム&アダム』(2022年)などが次々とつくられている。また、ネットフリックスの動画にも長編作品『マニフェスト』がある。  増えた背景の1つにはストレートな恋愛映画、学園映画や戦争映画などがやや飽きられ、減少したことがある。また、タイムリープ映画は便利な代物なのだ。恋愛や人生哲学、環境問題などあらゆる要素を融合することが出来る。

ヒットの肝は何と融合させるか

 日本映画もまたタイムリープ作品が増えた。『ジュブナイル』(2000年)、『サマータイムマシン・ブルース』(2005年) 、『バブルへGO!!』(2007年)、『江ノ島プリズム』(2013年)、『君の名は。』(同)、『九月の恋と出会うまで』(2019年) 、『東京卍リベンジャーズ』(2021年) 『君が落とした青空』(2022)などがつくられた。  理由は洋画とほぼ同じ。また、発想が柔軟で夢のある作品を好む若い世代にウケが良いという事情もある。実際、日本映画のタイムリープ作品は大半が青春映画だ。さらにCGの発達により、過去や未来が低予算で再現しやすくなったことも挙げられる。  映画界のトレンドは少し遅れてドラマ界に表れるのが常である。また、日本映画と同じく、ドラマのタイムリープ作品も若い世代に歓迎される。2020年4月に個人視聴率が標準化して以降、コア視聴率を追う民放としては狙い目なのである。  おそらくドラマ界のタイムリープ作品はまだ増える。ドラマの放送枠数が増える一方でストーリーのマンネリ化が進行しているからだ。  ドラマの成否のカギを握るのはタイムリープと何と融合させるかである。『ブラッシュアップライフ』はドラマ界が忘れかけていた幼なじみという存在をクローズアップし、その救命に主人公の麻美(安藤サクラ)が命懸けになるという設定を考え、成功した。 『最高の教師』は教育問題と融合させた。新しかった。『ペンディングトレイン』は振るわなかったが、それは登場人物たちをタイムリープさせる理由が乏しかったからだろう。 『不適切にもほどがある!』が描く価値観には批判も一部にあるが、成功した一番の要因も価値観を描いたから。「クラリオンガール」の存在やスマホの出現など文化・文明の変化を扱うだけでは多くの視聴者を惹きつけなかった。 <文/高堀冬彦>
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
1
2
3
おすすめ記事