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「赤黒の全身刺青」と「世界最大の軟骨ピアス」…超個性派の古物商が思う「日本社会への違和感」

 そこに現れた男性の、やけに長い睫毛とすっと整った鼻筋に目がいく。顔全体、あるいは身体全体を引きで見たとき、黒と赤に塗られていると思った皮膚が刺青によるものだったと気づいた。大黒堂ネロ氏。ほぼ全身を墨が覆う彼は、「まだ進化中です」と静かに微笑む。その真意と人生の到達点について聞いた。  大黒堂氏は滋賀県で生まれ育った。最初に刺青を施したのは18歳のとき。右腕すべてに墨を入れたのだという。
大黒堂ネロ氏

大黒堂ネロ氏 <photo by junichi soga>

目立ちたくて“この姿”になっているわけではない

「幼少期から刺青が好きだったのかと聞かれるのですが、まったくそんなことはないんです。それからこれもよく勘違いされるのですが、別に目立ちたくてこの姿になっているわけでもないんです。きっかけは本当に些細なことです。ちょうど知り合いに刺青をしている人がいて、興味本位でした。でも最初に彫った刺青は私の好みに合わなくて、『この人なら満足させてくれる』と思う彫師さんをやっと見つけたのは20代前半のときでした」

「中身を見ようとしてくれる人」が好き

大黒堂ネロ氏

<photo by junichi soga>

 そこから大黒堂氏の刺青は加速度的に増えていった。一方で、大黒堂氏は古物商として正業を持っている。真面目さはこんな話からも伝わってくる。 「古物商を始めたのは、もともと裁縫が好きだったことに端を発するんです。自分が着るための服を製作してながら、販売もしていました。ところが生計を成り立たせるためには自分が着るものばかりも作っていられませんよね。ちょうど古いものも大好きだったことから、古物商として生計を立てようと思いつきました。実は現在でも、裁縫をやるために古物商以外のモデル活動をやったりしているんです。  古物商の仕事において大切なのは、古物市場に行って先輩たちとかかわり、つながりや信頼を築き上げることです。紹介でのみ入ることを許される場所もあります。全国古書籍商組合連合会というところの組合員になるのですが、そうした連帯が非常に大切になってくる仕事です。同業者でもお客様でも、最初は僕の姿を見てぎょっとしますが、ものの数分で違和感なくいろんな話をしてくれますね。そういう風に、外観ではなくて中身を見ようとしてくれる人たちが僕は好きです」
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刺青はライバルであり、「常に闘っている」
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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