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「赤黒の全身刺青」と「世界最大の軟骨ピアス」…超個性派の古物商が思う「日本社会への違和感」

欲望に隷属している姿を眺めるのが好き

大黒堂ネロ氏

<photo by junichi soga>

 大黒堂氏の言う“スケベ”。これは、彼の人生の根幹に鎮座しているのかもしれない。 「スケベというのは何も性的な事柄に限らないんですよね。人が隠そうとしていたものが見える瞬間、秘密が暴かれるとき、得も言われぬ色気を感じるという意味です。たとえば古物商をやっているとそういう瞬間に遭遇することは多いです。最後までその人が隠したかったであろうものに触れると、『スケベだな』と思います。あるいはもっと大きな視点でいえば、『この事実を隠したかったからこうやって世の中が変わっていった』みたいな歴史の裏側ってあるじゃないですか。それも同じですね。  ほかには、人が食べ物を食べているときはスケベですよね。『胸焼けしちゃうけど食べちゃう』なんていうのは、それがわかっていて依存している状態だと思いますが、欲にまみれた姿がスケベだなと感じます。自分は欲望をなくしたフラットな状態にして、欲望に隷属している姿を眺めるのが好きなんです」

「親からもらった身体を大切にしろ」に違和感

 道を行き交う人の群れでも、大柄な全身に刺青を施した大黒堂氏の姿は異彩を放っている。だがほとんど他人の視線は気にせず、常に意識は自己へ向いている。 「基本的に街を歩くときは、鏡やガラスに映る自分の姿がどうかを気にしているので、他人の言葉はあまり入ってきません。面白いのは、僕に話しかけてくる初対面の人の多くは、だいたい刺青か軟骨ピアスのことを話題にするんです。ちょっとした統計を取っているのですが、やや傾向めいたものもあるなと最近わかってきました。僕は分析するのが好きなんでしょうね、きっと」  特に日本において根強い刺青への拒絶感についても、大黒堂氏はこんな風に分析する。 「よく用いられる文言に『親からもらった身体を大切にしろ』というものがありますよね。しかし親からもらった身体を食品添加物や着色料にまみれた食事で満たすのは批判の対象にならないのに、刺青だけは批判を超えて誹謗中傷してもいいという雰囲気が醸成されているのは疑問だなと感じます」
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「刺青のコメンテイター」が日本にいないからこそ…
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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