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『先生の白い嘘』騒動で露呈した“認識不足”。人気ドラマでも“茶化したような描写”が

主演俳優による提言の実績はあったが…

アメリカでは2017年にハーヴェイ・ワインスタインによる性加害が告発されて以来、女性俳優たちが声を上げるMeToo運動が始まり、HBOのドラマ『The Deuce』(2017年)からインティマシー・コーディネーターが導入されるようになった。日本ではNetflix製作作品『彼女』(2021年)が、日本映画初の導入例。主演の水原希子が現場環境を改善するためにNetflix側に提案し、働きかけたことから導入が実現した。つまり『先生の白い嘘』で奈緒が導入を希望する前から主演俳優による提言の実績はあったことになる。 『彼女』に参加した浅田智穂は同作をきっかけに日本初のインティマシー・コーディネーターになった人物。以降、浅田は同じくNetflix作品の不倫ドラマ『金魚妻』(2022年)や地上波ゴールデンプライム帯の連ドラとしては初の導入例となった『エルピス-希望、あるいは災い-』(関西テレビ・フジテレビ、2022年)にも参加している。この職業名が作品にクレジットされることがまだまだ少ない現状を考えると、予算組の時点で同職が前提となる必要がある。

「2017年以降の映像作品」に求められる表現力

MeToo運動以降のインティマシー・コーディネーター導入は、濡れ場を撮影する現場環境の改善や俳優の心的な不安、ストレス軽減だけのためではない。性愛を表象する表現レベルでの向上も見込まれるのではないか。濡れ場に立ち会い、監督と俳優の橋渡しをするインティマシー・コーディネーターが現場に存在することによって新たな濡れ場表現が編み出されるかもしれない。 ここで映画史の観点から少し確認しておく。1910年代、世界最初のスター女優とされるセダ・バラは、際どい衣装による露出で観客たちの性的な欲望を刺激した。映画は黎明期から1934年に暴力や性的要素を注意事項として表現規制したヘイズ・コードが実施されるまで、あられもないセクシャルな場面を活写していた。 ヘイズ・コード以降、映画表現は不自由になったかに見えるが、ハワード・ホークスによるスクリューボール・コメディの傑作『赤ちゃん教育』(1938年)など、アメリカ映画の表現力は飛躍的に向上した。1930年代には大衆娯楽としての黄金期を迎えた。 ヘイズ・コードはあくまでアメリカ映画界の自主規制だったが、もしこの時代からインティマシー・コーディネーターが導入されていたら、ハリウッドの専業プロフェッショナル集団の一員として黄金期の現場環境を根底から支えるべき存在になっていたように思う。 誤解を恐れずに言うなら、インティマシー・コーディネーターの存在によって、濡れ場が撮影される演出空間は開かれ、監督と俳優のコミュニケーションはより円滑になり、ヘイズ・コード時代のように新しい演出表現が豊かに考案される。それが2017年以降の映像作品すべてに求められる表現力だと思う。
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監督と俳優の信頼関係だけでは…
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コラムニスト・音楽企画プロデューサー。クラシック音楽を専門とするプロダクションでR&B部門を立ち上げ、企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆。最近では解説番組出演の他、ドラマの脚本を書いている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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