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『地面師たち』ダーティな犯罪者に“なぜか惹かれてしまう”理由。被害者が相次いでも「気が滅入らない」

小説を原作にしたことで生まれた“遊び”

 それぞれの役割が違うだけでなく、個性も異なるものに出来る。やはりドラマに向く。2010年代以降、地面師の存在に注目が集まりつつあったことも追い風になったに違いない。まずアパホテルの関連会社・アパが2013年、東京・赤坂2丁目にホテル用地377平方メートルを取得したところ、それが地面師の仕組んだ架空取引であることが分かり、話題になった。アパ側は12.6億円を騙しとられた。  2017年には積水ハウスが55億5000万円を騙し取られた。東京・西五反田2丁目に約2000平方メートルの土地を購入したはずが、詐欺だった。こちらも世間の関心を集めた。  リクルート出身の作家・新庄耕氏(40)が、積水ハウスの事件をモデルにした小説『地面師たち』を書いたのは2019年。このドラマの原作だ。それを大根仁氏(55)が脚本化し、監督した。原作がノンフィクションではなく、小説だったのも勝因の1つに違いない。原作がノンフィクションだと、事実と合わせることで平板化しかねない。物語に遊びの部分が設けにくくなる。  大根氏が脚本・監督を担当したのもヒットの理由だろう。大根氏はテレビ東京『モテキ』(2010年)などのコメディを撮る一方、フジテレビ系の社会派作品『エルピス-希望、あるいは災い-』(2022年)を監督した人。硬軟自在である。『地面師たち』も息を飲むようなシーンの中に、くすりとくる1コマが挿入されている。だから被害者が相次ぐ犯罪ドラマでありながら、観ていて気が滅入らない。大人向けのエンターテインメントに仕上がっている。

制作費は地上波の5倍。ドラマの質にも“穴”はない

 ドラマの質を決めるのは「1に脚本、2に俳優、3に演出」である。このドラマの場合、一番大切な脚本が抜群である。説明的要素を入れなくてはならない第1回を除くと、目の離せない展開が続く。時間が過ぎるのを忘れる。予測はことごとく裏切られる。CMがない強みも生かされている。    レイティング(年齢制限)があり、視聴を16歳以上に限定しているのもヒットした理由だろう。レイティングがあるのは暴力シーンが多少含まれているためだが、アンダーグラウンドの世界を暴力抜きに表現するのは難しい。米国刑事ドラマも暴力シーンを含める代わりにレイティングを設けている。  豪華な出演陣も観る側を惹き付けているはず。主要キャストは全員、文句なしにうまい。地上波ドラマではマネできないだろう。Netflixの制作費は1時間当たり約1億5000万円なのに対し、地上波の1時間ドラマの制作費は約3000万円(プライム帯=午後7~同11時)に留まるからだ。Netflixの制作費は地上波の5倍。俳優のギャラに限っても数倍。だから本人と所属芸能事務所は大歓迎なのである。  脚本執筆にも手間と時間が掛けられる。また「こんな場所でも撮るのか」というシーンがいくつもある。さらに観ると分かるが、カメラの位置が頻繁に変わる。撮影と編集に十分な資金が使われているからだ。 『地面師たち』には穴がない。再生数はまだ伸びるだろう。 <文/高堀冬彦>
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
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