更新日:2024年09月20日 11:33
仕事

「障害者5000人解雇や退職」で明るみになった“就労移行支援”の現場をのぞく。“プロレベル”の職人技も

卒業生全員とグループLINEで

 テーブルに着いた筆者に職員の方がアイスコーヒーを振る舞ってくれた。職員の定着率も高く、障害者雇用であるストリンガーを除き「全員10年以上勤務しています」というから驚く。また職員同士のみならず、利用者とも信頼関係を築いているようだ。 「前提として、うちは定着支援に期限を設けていません。僕は卒業生とも全員、グループLINEでつながってるんですが、ある卒業生が僕に『ギターを始めようと思っている。ギターを選んでくれ』って言うんです。僕ギターのこと全然わからないのに(笑)。それでもいいから選んでくれと」  最終的にその依頼はギターへの知識不足を理由に辞退したとのことだが、利用者からの厚い信頼が伺えるエピソードだ。 「僕は結婚してないんですけど、利用者の人たちは本当に自分の“子ども”のような感覚です。卒業するときはちょっと淋しいですし(笑)。今度A型事業所を設立しようと思っていて。でも『やってあげよう』、『つくってあげよう』という姿勢は僕は嫌なんです。彼らがやりたいことがあって、そこに近くにただ僕がいる感じでいたい。A型を設立する意味ですが、本当に心底働くことを夢見ていても、障害や症状などで企業が求める就業条件に達することができない人や、超短時間でも働きたい人を見てきました。そういった支援を必要としている人たちから、働ける場を求める声が多かったことから構想が始まりました。  彼らには“力”があります。ここを卒業した後も、自身の力で人生の問題を本当に自然に乗り越えられた、と思ってくれたら、とつくづく思っています」

必要な情報とサービスの提供を

 最後に、現状の障害者福祉サービスについてどう思うかを聞いてみた。 「うちは医療従事者が起ち上げた事業所なのでこういった支援を特徴としているだけで、各所に各所の長所や短所があります。現在の日本の障害者雇用が成長しているのは事実です。ただ、営利だけを追求する内容のない事業所があったり、あるいは当事者に情報が行き届いていないこともまた確かなんです。障害者福祉サービスを必要としている当事者の方に、情報やサービスが適正に提供されるように願っています」  窓から風景を眺めると公園の樹々がざわめいている。大窓から陽の光がさんさんと差し込み、明るいフロアでは休憩中の利用者の方々が談笑していた。  障害者への信頼に基づき、熱心に自身の仕事に取り組んでいる山﨑さん。障害者支援の希望に気づかされた思いだった。 <取材・文/延岡佑里子 写真提供/就労移行支援事業所T&E>
障害者雇用でIT企業に勤務しながらの兼業ライター、小説家。ビジネス実務法務検定2級、行政書士試験合格済み。資格マニアなのでいろいろ所持している。バキバキのASD(アスペルガー症候群)だが、パラレルキャリアライフを楽しんでいる。Xアカウント名:@writer_nobuoka
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