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高速道路を走行中、腹部に激痛が。「我慢できなくなった方が負け」という地獄のルールを設けた結果…

二人そろって腹痛に苦しめられることに

 高速道路に入ってしばらくすると、岸本さんは腹部に違和感を覚えた。内臓を掴まれているような鋭い痛みが走る。  助手席の青年を見ると、手で腹を押さえている。足を組み、下唇を噛んでいる。当たった、直感でそう思った。 「刺身が良くなかったのかな」と岸本さんは青年に声をかける。 「そうかもしれないですね」と青年は答えたが、表情は笑顔だ。しばらくは大丈夫そうだ。 「次のパーキングエリアに入るから、それまで頑張ろうぜ」  ラジオを付け、気を紛らわせることにした。エアコンを弱め、できるだけ腹に刺激を与えないよう注意する。 「僕、野球部だったんで根性はあるんですよ。三日間徹夜とかもしたことあるし。だから余裕で我慢できます」 「パーキングまでそんなに遠くないと思う」 「アクセル全開でお願いします」

なぜ途中で高速を降りなかったのか

 あまり高速道路を利用しない岸本さんは圏央道のトイレ事情に詳しくはなかった。江戸崎パーキングを超えると、次の菖蒲パーキングまで1時間ほどかかることも知らなかった。  そのため、いくら車を走らせてもパーキングの表記が見えてこない。二人の額に冷や汗が走る。岸本さんは下唇を噛み、追い越し車線を走り続けることしかできなかった。  20分ほど車を走らせるが、腹痛は収まるどころかより一層激しくなる。これまで経験したことがない刺すような痛みだ。最初はあった楽しげな会話もなくなり、「頑張ろうぜ」とか「もう少しだと思う」という励ましだけが交わされていた。  高速を途中で降りるという選択肢もあったはずだ。一般道に出てコンビニに寄れば問題はすんなり解決する。どうしてそうしなかったのかと尋ねると、岸本さんから意外な答えが返ってきた。 「意地、ですかね。例えば知らないおじさんと同じタイミングでサウナに入ったとするじゃないですか。そういうときって、先に出た方が負け、みたいになりません? 先に出た人の背中を見ると、勝ったって思っちゃうんですよね」
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耐え抜いた結果、奇妙な友情が芽生える
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