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「虎に翼」松山ケンイチが“ラスボス説”の根拠。モデルになった史実の人物は「大掛かりな弾圧」も

ドラマ内での人柄にも“変化”が…

 一方、桂場もこのところ不穏な動を見せている。第117回、団子屋と寿司屋が一緒になった「笹竹」で桂場の最高裁長官のお祝いが行われた。出席した多岐川が「困ったときにはオレたちが付いている。この国と国の司法を頼むぞ」と声を掛けると、一言も答えず、すこぶる不愉快そうだった。桂場は愛想の良くない男だが、これまでなら考えられない態度だ。一方、寅子のパートナー・星航一(岡田将生)の長男で裁判官の朋一(井上祐貴)は、桂場新体制の最高裁が出した判決に不満だった。日米安保条約に関する集会を開いた仙台の裁判所職員が、有罪になったからだ。118回だった。 「僕の開いている勉強会の連中もみんな怒っている」(朋一)  朋一たちはリベラルだ。桂場が弾圧するグループには朋一の勉強会も含まれているのか。裁判官も憲法19条によって思想・良心の自由が認められている。朋一が弾圧されたら、寅子は黙っていない。  石田氏はどうしてリベラルな裁判官を毛嫌いしたのだろう。まず本人が保守的だったからだ。退官後は保守団体の幹部を務めている。それより大きかった理由は政治家に人事や裁判への介入をさせたくなかったためである。 「石田さんは政治家が裁判に口出ししてくることをずっと嫌っていました。政治家が介入してくる余地をなくすため、リベラルな裁判官を排除した」(ベテラン法曹人)

社会派作品なのに硬派一辺倒ではない

 桂場の考え方とも一致する。桂場は貴族院議員・水沼淳三郎(森次晃嗣)のデッチ上げだった「共亜事件」で、水沼の意に沿わぬ判決を出したため、長く冷や飯を食わされた。以降、政治家を嫌うようになった。  穂高が亡くなった直後の第70回には「司法の独立を守る! もう2度と権力好きのジジイたちに好きなようにはさせない!」(第70回)と、竹もとで雄叫びを上げた。  原爆裁判中だった第115回には政治家に裁判を終わらせるよう圧力をかけられていると寅子に伝えた。不快そうだった。第118回で政権与党・政民党が「裁判制度に関する調査特別委員会」を設置し、裁判への介入を図ろうとすると、また怒りを露わにした。  桂場も政治家を排除するため、リベラル勢力の弾圧に向かうのだろう。おかしな理屈だが、それが史実である。 『虎に翼』は社会派色の強い朝ドラだった。過去、原爆裁判、東大安田講堂事件(1969年)を扱った作品はない。ニュース映像をふんだんに使ったのも異例。70代になっている学生運動世代は懐かしかったのではないか。  それでいて硬い作品ではなく、一級のエンターテインメントに仕上げられた。最後まで目が離せない構成になっているところも立派である。 <文/高堀冬彦>
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
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