放送中のGPドラマに「肩をブンブン回して挑んでいます」
俳優業も好調だ。もともと全国区としては、大東建託の「いい部屋ネット」のCMでブレイクした桜井。その後、舞台『それいゆ』(2016)で芝居の魅力に目覚め、主演映画『ママレード・ボーイ』『殺さない彼と死なない彼女』、配信ドラマ『ヤヌスの鏡』『マイルノビッチ』などでキャリアを重ねてきたが、近年は役の幅を広げている。
「少し前は、お芝居をやっていてもそのことへの評価よりも、ビジュアルに対する意見ばかりが返ってきて、手ごたえがなかったんです。それであまり期待されていないんだなと思ってしまっていました。
でもあるとき、事務所の社長から『自分に期待しないとダメだよ。周りはいろいろ言ってくるけれど、自分のことを自分が一番できると思っていないと、どんどん自分なんかという思考になっていっちゃうよ』と言われて、『確かに』と思うようになったんです」。
今年は『95』(テレビ東京)、『マル秘の密子さん』(日本テレビ)と、地上波ドラマに2クール連続で出演。特に放送中の『マル秘の密子さん』での秘書・千秋は、今の桜井が演じることで豊かさを増している。
「とても面白い役をいただけて、『もっと頑張ろう』と私の糧になっています。実は、去年『君と世界が終わる日に』というHuluでやっていた役を、プロデューサーさんたちに『すごく良かった』と言ってもらって、本作で『千秋という役を作っていたら桜井さんの顔が浮かんだ』と言ってもらったんです。そんなことってあります!? もう本当に嬉しくて。久しぶりの地上波ゴールデン帯のドラマ出演に、肩をブンブン回して挑んでいます」。
演技の幅を広げたことで、脇としても立てるようになった。まだキャリアが浅かった頃、同世代の女優さんの活躍を見て「悔しくなることがあった」というが、10年経った今もいい意味でのライバル心は消えていない。
NHK連続テレビ小説、いわゆる朝ドラへの出演も「いつかは」と。2024年前期の『虎に翼』でヒロインを務める伊藤沙莉とは、ドラマ『THE LAST COP/ラストコップ』(日本テレビ)をきっかけに、武田玲奈とともに期間限定アイドルユニット「KBD(きびだんご)ホーリーナイト」を結成したこともある。
「沙莉ちゃんは当時経験値のない私から見ても、すごく面白い女優さんだなと感じていました。『私もいつか!』と思って、すごく刺激を受けていました」。
先輩からの刺激もある。2020年以降、舞台にも精力的に挑んでいるが、昨年出演した『ハロルドとモード』では、長きにわたって日本版の主演を務める黒柳徹子らから大いに刺激を受けた。
「黒柳徹子さん、戸田恵子さん、ベテラン俳優の方々の中に入れるだけで嬉しかったんですけど、生涯求められ続けている黒柳さんとご一緒できたのは本当に大きかったです。91歳ですよ、黒柳さん。本当にすごいです。ご一緒して、私も求められ続ける俳優でいたいなと思いましたし、何より、黒柳さんが楽しそうだったことが印象的でした。
舞台に立てることにキラキラしていて、『もっとこうしたら』『ああしたらもっと面白くなるんじゃないか』とあれほどの大ベテランの方が、前のめりで積極的に作品を作っている。そうした姿を見て、なんて夢がある世界なんだろうと」。
そう言って、桜井自身も目をキラキラさせながら、これからを見据えた。
「20代後半、まだまだです。私、『桜井日奈子が出るんだったら、面白いじゃん』と言ってもらえるような俳優になりたいんです。以前は、どこかでやらなきゃいけないこととして、お芝居をやっていた気がします。でも今は自由な気分になっている自分がいる。
この10年、続けてきたからこそ、バラエティでもお芝居でも、自発的にできるようになってきた。表現する自由度がちょっとずつ高まってきているのを感じます。たぶん20年後はもっと30年後、40年後と、これから先を考えていくと楽しみで仕方がないんです」。
【桜井日奈子プロフィール】
1997年、岡山県生まれ。「岡山美少女・美人コンテスト」で「美少女グランプリ」に選出され2014年にデビュー。翌年、大東建託「いい部屋ネット」のCMでブレイク。「岡山の奇跡」の愛称で呼ばれる。主な出演作は映画『ママレード・ボーイ』『ういらぶ。』『殺さない彼と死なない彼女』『魔女の香水』。現在ドラマ『マル秘の密子さん』に出演中。芸能活動「10周年記念写真集 鴇色』を発売
<撮影/神藤 剛 取材・文/望月ふみ>
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):
@mochi_fumi