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低視聴率で苦しむ『おむすび』だが、見どころは“本来の姿”を取り戻した橋本環奈にアリ

リアリズム映画の俳優だったこと

山崎と橋本は『斉木楠雄のΨ難』(2017年)や『キングダム』シリーズ(2019年〜)など、漫画原作の大ヒット実写化作品で共演することになり、橋本もまた実写化のイメージが色濃い俳優のひとりになった。ただし、『セーラー服と機関銃-卒業-』の翌年に公開された『ハルチカ』の橋本は、冒頭から疾走感を画面上に導き、その時点ではまだ実写化以前、どちらかといえばリアリズム映画の俳優だったことをここで確認しておかなければならない。 実写化王子としての山崎賢人の魅力とは、漫画内の2次元キャラクターをもろともせずに映画内に生身の存在として翻訳する能力者であること。それに比べると、『キングダム』シリーズを通じて河了貂を演じる橋本は、衣装を着せられた着ぐるみ感が強調されるだけで、漫画から映画への翻訳があまりうまくいっていない。 非現実的な役柄ほどいかに現実的に演じ、さらにその上で映画空間にしか感じられない存在感におさまるのか。映画俳優に求められる素質はこうしたシンプルな存在論に由来する。それが映画俳優の色気でもある。「奇跡の一枚」が今でも神話的に語られているのだとするなら、それこそ映画初出演作『奇跡』(2011年)で是枝裕和監督が小学生の橋下から引き出した存在の色気はもはや有効ではないのか?

こういう生身の橋本環奈を待っていたんだ!

そんな疑問符を身勝手に浮かべるとき、リアリズム映画時代への懐かしさにある程度応えてくれるのが、『おむすび』なのである。ぼくらはこういう生身の橋本環奈を待っていたんだ(!)。実際、本作の橋本自体が物語の序章となる第1週から第2週にかけて、待つことに徹する存在として描かれている。 甲子園での優勝を目指す四ツ木翔也(佐野勇斗)や書道部の先輩で書道家を志す風見亮介(松本怜生)だけでない。元カリスマ総代だった米田歩(仲里依紗)を姉に持つことから嫌々加入させられた博多のギャル連合ハギャレンのメンバーだってそれぞれ夢を持っている。なのに自分ひとりこれといって夢がない。等身大のもやもやを表現する橋本は、どこか孤独に迷いながらも洗い上げられたようなリアリズムを役に込める。 第2週第7回、ハギャレンのメンバーのひとりでクラスメイトである柚木理沙(田村芽実)と出かける道中、ギャル服に着替えるために天神地下街のトイレに入った理沙を結がただ待つ場面がある。この場面での待ち時間は「20分後」という字幕が表示されてほんの2カットの時間経過で描かれてしまうが、ただベンチに座って時間をつぶすだけの結の待ち時間をもっとじっくり橋本に演じさせたら、これはなかなかいい呼び水になるかと思ったけれど。
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本来の姿を取り戻した橋本環奈が見たい
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コラムニスト・音楽企画プロデューサー。クラシック音楽を専門とするプロダクションでR&B部門を立ち上げ、企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆。最近では解説番組出演の他、ドラマの脚本を書いている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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