仕事

冬の屋外で2時間謝罪、車で轢かれそうに…“想像以上にヤバイ”現場のカスハラの実態と今後

カスハラの深刻な影響と世の中の動き

 記事中で紹介したカスハラ事例の内容も相当なものだが、「その場だけで終わらないのも恐ろしいところ。カスハラを受けた本人、そしてその現場を目撃した従業員や顧客に与える影響についても深刻です」と、波岸氏は懸念する。 「カスハラを受けた本人だけでなく、現場にいた従業員も自分が顧客と接するときに激しい動悸やストレス・不安を感じるケースもあります。また現場を目撃した顧客が嫌な気持ちになり、『あの店には行きたくない』と考えて足が遠のいてしまうこともあるようです。こういった状況を受け、2020年6月に改正労働施策総合推進法が施行されました。同法では、顧客などからの暴行・脅迫・ひどい暴言・不当な要求などの著しい迷惑行為に対し、事業主が行なうことが望ましい取組の内容が規定されました」  東京都カスタマーハラスメント防止条例も含め、現時点でカスハラに対する罰則はないが、「こういった世の中の動きが、顧客が自らの言動に注意したり、安心安全な職場づくりに向けた企業による取り組みの後押しにつながったりしているようです」と波岸氏は言う。 「こういった社会喚起や企業労使の取り組みの成果と推測できる結果は、我々がおこなったアンケート調査でも出ています。たとえば直近2年以内で迷惑行為被害にあったことがあるかというアンケートで、2020年度の調査結果は56.7%の人が『あった』と回答していました。しかし2024年には46.8%と減少しています」

悪循環と想像力の欠如が背景に

悪質クレーム対策動画

「UAゼンセン」が作成した悪質クレーム対策動画より

 波岸氏によるとカスハラ加害者のなかには、自身が過去にお客から酷い対応をされたことがキッカケとなり、「自分が客のときには同じように主張したい」などと考えて振る舞ってしまった人もいるようだ。 「ただ、これはアンケートを取った段階で、カスハラ行為をしたときにどういう状態だったのかを思い出してもらった結果。カスハラ行為の前にこういったはっきりとした気持ちがあったわけではなく、気づいたときには加害者となっていたケースも多いでしょう」  波岸氏は、こういった状況を生み出す原因のひとつとして「想像力の欠如がある」と懸念し、「言葉を発するとき、何かを要求するとき、相手だけでなく、相手にも家族や暮らしがあることを想像してほしい」と願う。 「5年ほど前にはなりますが、私たちが作成した『僕にも家族がいて、人生があります。』というYouTube動画には、大きな反響がありました。スーパーに勤める男性が、来店したお客さんから『商品があると思って来た。在庫がないなら買って来て』と理不尽に詰め寄られるシーンからスタートする悪質クレーム対策の動画です」  スーパーで勤めるその男性は勤務終了後に深い溜め息を吐き、これまでに受けた酷い対応について思いを巡らせる。沈んだ気持ちで歩いていると、前方から妻と歩いてきた娘に声をかけられ、そのあと無邪気に「パパ、お仕事、楽しかった?」と酷な質問を浴びせられるのだ。 「男性は一瞬『う~ん』と言葉に詰まりますが、すぐに笑顔で「忘れちゃった」と回答。そのあと、『僕にも家族がいて、人生があります』というテロップが流れる動画です。当たり前のことですが、自分にも家族がいて人生があるように、相手だって同じ。そういうことを想像して、言葉を発する前や行動する前に踏みとどまってほしいと思います
次のページ
面接時や就労時に気をつけたいこと
1
2
3
フリーライター。ライフ系や節約、歴史や日本文化を中心に、取材や経営者向けの記事も執筆。おいしいものや楽しいこと、旅行が大好き! 金融会社での勤務経験や接客改善業務での経験を活かした記事も得意

記事一覧へ
おすすめ記事
ハッシュタグ