880億ドルの価値がある世界最大の銅山を中国が確保!
戦乱が激しさを増すアフガニスタンに、総額1兆ドルとも推定される資源が眠っている――。圧倒的な資金力で真っ先にその利権を獲得したのは、着々と資源戦略を展開する中国だった!
緑を基調とした迷彩服に身を包んだ男が門から出てきて、我々の前に立ちはだかった。
アフガニスタンには、チンギス・ハーン時代に侵攻したモンゴル人の末裔である「ハザラ人」という民族がいる。顔つきは日本人に近く、この男もそんな顔をしていたが、ハザラ人が話す公用語ダリ語も英語も通じない。彼は中国人なのだ。中国語の看板や旗などは何もないが、この門の向こう側で中国人労働者約100人が生活している。
首都カブールの南東ロガール州にあるアイナク銅山。1100万tの銅を埋蔵し、推定880億ドルの価値があるとされる世界最大規模の銅山だ。’74年にソ連が発見し、’08年から中国国営企業「中国冶金科工集団公司」を主とした中国の企業共同体(JV)が莫大な資金をかけて開発準備を進めているという。
記者はその実態を探るべく、アフガニスタンを訪れた。親タリバンで現政権に参加しているイスラム党の関係者2人に、警察官の運転手とAK‐47カラシニコフ銃で武装したもう一人の警察官、密かにタリバン関係者一人、という態勢を組んで車で現地へ向かった。
ロガール州は旧タリバン政権を構成したパシュトゥン人の住む地域で、今もタリバン支持者が多い。’08年には「ニューヨーク・タイムズ」の記者が州内で拉致されている。オバマ政権によってアフガン駐留米軍は3万5000人規模になったが、昨年の米兵死者数499人は’01年の開戦以来、最悪の数字。現在、全土の6~7割はタリバンの支配下にあるとみられている。ちなみにこの銅山一帯には「国際テロ組織アルカイダ」の基地があったとされ、米軍の空爆も受けている。中国人はそうした”危険な”場所にも住み着いて資源獲得に励んでいるわけだ。
アフガニスタン政府が入札準備を進めているハジガク鉄鉱山の周辺で羊を飼う村人
タリバン支配下の”危険な”場所で鉱山開発
よく舗装された幹線道路を1時間ほど走り、未舗装の脇道に入って土壁の家が散在する村を通り抜けると、数キロ先の山まで平坦な土漠が広がっていた。一本道を進むとすぐに警察の検問所。この先は、警察を管轄する内務省と鉱山省の許可がなければ立ち入れない。
銅山の周囲は、特別に採用された1500人の武装警察官が常時警備。65か所の詰め所が配置されており、三重に張り巡らせたフェンスで囲まれている。アフガン政府は、他の鉱山の入札参加を呼びこもうと「安全確保は万全である」とアピールしているが、とんでもない。それだけの警備が必要ということだ。警察官の賃金は中国企業が支給している。つまり、外国政府の支配下にある武装集団が、アフガン政府の中に存在している状態だ。このことは在カブール米国大使館が「構造的にも政治的にも問題」と懸念を抱いていることが、内部告発サイト「ウィキリークス」が暴露した極秘指定の公電で明らかになっている。
汎用機関銃PKMと警察官を乗せたピックアップトラックと何度かすれ違いながら、山あいの道をさらに2か所の検問を抜けて進むと、奥座敷のような盆地状の土地が開ける。その最も奥に位置しているのが中国人の居住区だ。
門の前で無線で話していた中国人から、中に入る許可が出た。別の中国人から入念にボディチェックを受ける。撮影は一切禁止で、「すべての撮影機材と携帯電話を門の外の車の中に残して徒歩で入れ」と言われる。数百メートル先には、白い壁に青い三角屋根を載せたコンテナ約20棟が、新興住宅地のように整然と並んでいた。一部は、彼らが雇った中国語と英語を話すハザラ人通訳や、地元のエンジニアが宿泊する施設だ。
結局、1時間近くも待たされたあげく、「取材は受けない」と追い返されてしまった。門の外側で山側の写真を撮ろうとしても、羽交い絞めにされ阻止された。彼らは視察を希望する米軍関係者も、外国メディアの取材も受け入れていない。居住区の中で何をしているのかはベールに包まれたままだ。
アイナク銅山に向かう道路で検問を行うアフガニスタン警察。
カラシニコフ銃で武装している。警察官の賃金は中国政府が
支給、実質は中国政府が雇うガードマンという扱いだ
アイナク銅山の中国企業居住区の前を携帯電話で隠し撮り。
迷彩服を着て向こうを向いているのが中国人警備員。
退役軍人を警備員として雇うケースが多いようだ
撮影/安田純平
― [現地ルポ]中国の狡猾資源戦略を暴く【1】 ―
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