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震災被害を[声高にアピールできない業界]の苦悩【その2】

サーフィン業界 有名スポットは壊滅的。 サーファー頼みの飲食店や旅館も閑古鳥が  大津波で甚大な被害を受けた茨城、福島、宮城の沿岸部。これらの地域には、波乗りたちが集うサーフスポットが広範にわたって点在していた。茨城・鹿島エリアを中心に海に入ってきたサーファーの坂口徹さん(仮名・29歳)は業界が直面する問題をこう語ってくれた。 「茨城以北の海は壊滅的ですね。しばらくは近寄れない状態が続くでしょうが、実は大きな被害で注目されている北関東・東北地方だけでなく、千葉の海がヤバかった。津波で13人の犠牲者が出た飯岡海岸(千葉県旭市)は、緊張状態が続いていると聞きます。地元住民が必死に瓦礫撤去などの復旧作業を行うなか、震災翌日から海に入りにきたサーファーがいて地元住民とひと悶着あったんです」  一部の心ないサーファーたちの所作でサーフィンに対する風当たりが強まったと坂口さんは憤る。  また、原発事故による放射能汚染水の流出も懸念材料のひとつだ。 「実際の被害が出ていない海岸でも、『水は危ないから出ていけ』と強引にサーファーを追い出す住民がいます。こんなときに海に入るなんて頭がおかしい、と言わんばかりです。まぁ、経験豊富な俺らは判断ができるからまだいい。あんなにひどい津波の映像をテレビで毎日見せられて、これから海に入ろうってヤツが減っていることが何より悲しいですね」  海水汚染を顧慮する住民と、それでも海に入りたいサーファーたち。一触即発の攻防戦は今も続いている。 南下するサーファーたち移転を決めたショップも  波に乗り続けないと生きていけないという坂口さんは今、遊び慣れた地元・茨城の海を離れ、場所を転々として波に乗り続ける。 「1か月たって自粛ムードも軟化し、余震の心配が薄れてきたからか、関東の海は徐々に人が増えてきています。むしろ茨城から下りてくる人たちで湘南や千葉の片貝海岸は普段より混んでいる。津波で店舗が流されてしまった福島県内のサーフショップは、早くも宮崎県に移転を決めています。いい波を求め、遊牧民のように動いていく。しかし、もともとはローカル意識が強く、それぞれ自分たちの海は自分たちで守っているという”暗黙の縄張り”もある。一部の海によそ者が来続けると、トラブルが起きるのは必然でしょうね」  これから夏に向かってハイシーズンを迎えるマリンスポーツ。彼らをターゲットとしてきた近隣の飲食店や土産物屋、宿泊施設からも嘆きの声が聞こえる。 「サーフィンはもちろん、海釣りやマリンスポーツの教室を主宰してここに来てくれていた団体も、震災後には次々と海から離れている。聞けば登山やアウトドアなど、陸に特化した講習に切り替える団体も多い。私らは簡単に商売替えできないからツラいですよ」(旅館経営者)  海岸の地形をも変えてしまった大津波。海とともに生きてきた人々の生活もまた、大きな変化を余儀なくされている。
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被災地の有名スポットにはモラルのない者を戒める看板が
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一年中サーファーで賑わっていた浜辺も、今は姿を変える


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