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【追悼】あの日の伊良部の意外な着メロは……

伊良部秀輝

2003年取材当時。撮影/落合星文

2003年、我らが阪神タイガースは18年ぶりの優勝を果たした。前年オフ、星野仙一監督は一気に26人もの選手を入れ替える大改革を断行したが、それが見事に成功したわけだ。なかでも、エース井川の20勝に次ぐ13勝を挙げ、優勝に大きく貢献したのがメジャー帰りの伊良部秀輝(敬称略・以下同)であった。

正直に言うと、当初はそれほど期待していなかった。ヤンキース退団後は故障もあって目立った活躍はなく、02年にレンジャーズでクローザーとして復活したかと思われた矢先に肺血栓が見つかりリタイヤ。投手としての全盛期は明らかに過ぎているし、ヤンキース時代の悪童イメージもあり、むしろ不安要素のほうが大きかったように思う。

ところが、いざシーズンが始まると、そんな不安は消し飛んだ。7年ぶりに日本球界に復帰した伊良部は、かつての剛腕イメージとは一味違うクレバーな投球を披露。ローテーションをしっかり守り、着実に勝ち星を積み上げていった。

そんな伊良部にインタビューする機会を得たのは6月の終わり。SPA!臨時増刊の阪神特集号のための取材だった。

第一印象は、とにかく「デカい」の一言。それまでにも野球選手を取材したことは何度かあったが、その誰よりも伊良部はデカかった。193センチという身長もさることながら、顔のサイズがハンパじゃない。そして、スポーツ選手とは思えないほどせり出した腹。あれでよく投げられるものだと逆に感心してしまったほどだ。

あまりの威圧感にビビりながらも、元阪神でロッテ時代の先輩でもある遠山奨志氏に聞き手を務めてもらったおかげで、インタビューはスムーズに進行。そのなかで伊良部は、いかに「ロケーション(いわゆるコントロール)」と「メカニクス(フォーム)」を意識して投げているかを事細かに語ってくれた(事実、その時点で9勝2敗の成績は、井川の8勝3敗を上回っていたし、四球の少なさは特筆ものだった)。

ときにギロリとにらむような目つきをしながら次の瞬間には人懐っこそうな笑みを浮かべていたりする。ぶっきらぼうな口調ながらも、質問には丁寧に答える。それまで抱いていたイメージとは少し違う伊良部の姿がそこにはあった。

そしてもうひとつ印象に残っているのは、あるちょっとしたハプニング。いや、ハプニングと言うほどのものではないのだが、取材中に突然、「キャンキャン!」と子犬の鳴き声が聞こえたのだ。取材場所はホテルの上層階。子犬なんているはずがない。空耳か?と思いつつあたりを見回したそのとき、伊良部がおもむろにポケットから携帯を取り出し、「あー、もしもし……」と話し出した。なんと、その子犬の鳴き声は伊良部の携帯の着メロだったのだ。「似合わねー!」と思わず心の中でツッコんだが、今考えれば妙に納得というか、そこに伊良部秀輝という人間のデリケートさが表れていたのかもしれない。

けれど、ああいう形で亡くなったからといって、「本当は繊細で優しい男」みたいな話でまとめてしまうのにも違和感がある。本人の心の内は知る由もない。それをわかったふうに語るより、個人的には「ガールズバーでカードが使えないのに腹を立て150キロで灰皿を投げた」みたいなエピソードを持つ“破格な男”として記憶に残したい。もしも20年ぐらい経って伊良部を知らない世代の野球ファンと話をすることがあったら、いかにトンデモなくスゴくて面白い選手だったかを、熱く語りたいと思う。

文/新保信長

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