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荻上チキ「『困ってるひと』『「フクシマ」論』は現実を叩きつける快作」

社会学者・開沼博と作家・大野更紗――。

開沼については、日刊SPA!では7月初旬に『現役東大院生が『原子力ムラ』を擁護!?』とのタイトルで、そのインタビューを掲載しているので、ご存知の方も多いだろう。著作、『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』は、学術書としては異例の1万部超のセールスを記録し、膠着する原発事故問題の議論に一石を投じている。

一方の作家・大野更紗。ビルマの難民問題の研究者だった彼女だが、2008年に自己免疫疾患系の難病を発症。その経験から見えてきた“発見”を軽やかに描いた処女作『困ってるひと』がベストセラーとなっている。

社会学者・開沼博と作家・大野更紗
 時の人とも言える彼らはともに、1984年、福島県出身。

 週刊SPA!8月9日号「エッジな人々」で、「フクシマ」ではない「福島」を知るこの2人が、現在の原発を巡る議論について語り合った。その内容については、是非、本誌記事をご覧いただきたいのだが、この2人の邂逅に評論家・荻上チキも大いなる期待を抱く――。

◆『困ってるひと』&『「フクシマ」論』、この2冊が突きつけたものとは?

荻上チキ

おぎうえちき●1981年、兵庫県生まれ。評論家・編集者。メールマガジン「αシノドス」編集長。著作に『セックスメディア30年史――欲望の革命児たち』(ちくま新書)など。本誌にて「週刊チキーーダ!」連載中

 大野更紗さんの『困ってるひと』、開沼博さんの『「フクシマ」論』。どちらも、今すぐ読むべき、若手最注目株の二冊です。いずれも多くの人が目を背けてきた「現実」を叩きつける快作です。

 『困ってるひと』は、「難病患者であること」ということ自体の説明から始め、それ自体が社会問題だということを可視化させるところがスタートラインになります。「こういった問題を抱えています」という自分の生活や人生にまず目を向けてもらい、興味関心を埋め込み、そこから先の解決法をみんなで考えなくちゃいけないというモードへシフトさせるための役割を果たしている。言うなれば、あまりにクールな社会関心をホットにするための一冊です。

  一方の開沼さんの『「フクシマ」論』は、かつては社会問題として関心を持たれていたけれど、既に関心が失われ、しかし今再びみんなが「関心を持たされてしまった」原発の問題に対して、実はこの40年間か50年間の失われた歴史としてどういう背景があったのかを丁寧に提示する本です。

 「原発推進vs反対」という二項対立的な膠着した言説がこれまであり、それがそのまま「原子力御用vs脱原発」に変わるだけ、というような悲劇的な反復にならぬよう、単純化されがちな歴史の複雑性を紐解き、過去から学ぼうという意欲に満ちています。修論としての執筆段階では真逆のスタンスだったと思いますが、奇しくも3・11後は、ホットになりすぎた問題をクールに整理するための一冊です。
 
 若い書き手がこうして筆を取るのは、世の中をアップデートするため、今のままでは社会がうまくいかないという異議申し立てのためです。「社会問題」の存在に気づかせたり、その語られ方そのものを疑ったりするためで、いずれの書籍にも、静かな怒りが見え隠れするものです。しかも、よくありがちな「社会へのダメだし」に終始するようなものでは決してなく、自らが社会の再構築の役割を担おうとするのです。

⇒【後編】につづく

※『現役東大院生が『原子力ムラ』を擁護!?』(http://nikkan-spa.jp/18902)

開沼博●1984年、福島県いわき市出身。東京大学文学部を卒業。2011年、東京大学大学院学際情報学府修士課程終了。現在、同博士課程、在籍。『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)が、学術書としては異例の1万部超の売り上げとなっている”]

大野更紗●1984年、福島県出身。上智大学外国語学部フランス語学科卒業。上智大学大学院グローバルスタディーズ研究科地域研究専攻前期課程休学中。2008年に自己免疫疾患系の難病を発症。その経験から見えてきた“発見”を軽やかに描いた処女作『困ってるひと』(ポプラ社)が、ベストセラーに

撮影/福本邦洋 構成/鈴木靖子(本誌)

「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか

原発は戦後成長のアイコンだった


困ってるひと

知性とユーモアがほとばしる、命がけエッセイ!!

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