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弾圧が起きているシリアの街での秘密警察騒動

 8月7日にシリア東部の街デリゾールで軍の戦車が反体制デモの鎮圧に投入され、38人が死亡したとの報道があった。この日は、西部の街ホムスでも13人が死亡し、シリア全国で少なくとも57人が死亡したという。
 8月4日には、クリントン米国務長官が「シリアでは弾圧によって2000人以上が死亡している」という旨の発言をしていたが、ますます反政府デモとその弾圧は苛烈になっているようだ。

 今回、38人が死亡した街、デリゾールに記者は辺境作家の高野秀行さんに同行して昨年11月に訪れており、「あの街でもデモが起きているのか」との感想を持った。いや、むしろあの街だからこそ、デモが起きるのか。なにしろ秘密警察が町中に目を光らせているらしいのだから。

 シリアは社会主義の独裁国家で、非常に息苦しそうなイメージがあるが、実はヨーロッパから数多くの観光客が訪れている。セレウコス朝シリアなどのローマ時代の遺跡や、世界遺産のパルミラ遺跡などが彼らがシリアを訪れる理由の一つのようだ。
 デリゾールにはユーフラテス川にかかる巨大なつり橋があり、それも観光名所となっている。
 我々はトルコとの国境から陸路でシリア北部に入った。北部の大都市アレッポでは、「ここは本当に独裁国家か?」と思うほど自由闊達な雰囲気だったが、デリゾールに入るとその雰囲気は一変。町中の至るところに今、世界各国から非難されているアサド大統領の肖像画が掲げられ、「うわー、独裁国家に来たなあ」という印象を持った(中東では国家元首の肖像が掲げられている国も少なくないようだが、ありとあらゆる店の入り口などに掲げられおり、異常な数だった)。
 デリゾールはトルコとイラクとの国境への道が交差するポイントにあり、どうやら軍事的に要所となっている街なので、非常に軍や警察の監視が厳しいようだ。そもそもシリアでは政府の建物などは撮影することが許可されていないが、デリゾールに入ったときに、アレッポで雇ったドライバーから「軍や警官は絶対に撮影するな。警察が監視している」と念を押され、緊張感が増した。

 実は、このドライバーがこれまでの道中、なかなか言うことを聞いてくれず、デリゾールのホテルに入ったときに、フロントで明日の日程を確認することになった。この旅の目標のひとつにイラクとの国境を見る、ということがあったので、フロントで記者は「イラクボーダー、イラクボーダー」と連呼していた。
 ドライバーは「わかった、わかった。俺はプロフェッショナルだ、安心しろ」と言って、最初は8時にホテルを出発しよう、と言っていたのを6時半出発に変更することを約束させ、各自ホテルの部屋に戻った。

 部屋で一服し、高野さんの部屋に「飯でも食いに行きましょう」と訪れると、何やら緊迫した雰囲気。ドライバーがすでに部屋におり、何やら血相を変えて高野さんにまくしたてている。どうしたんですか、と高野さんに聞くと、「いや、彼が言うことには、フロントで打ち合わせしたのがまずかったんだって。フロントに男が二人いたでしょ。あのうち一人が秘密警察だっていうんだよ」とのこと。

 ドライバーは続ける。
「いいか、ここはデリゾールだ。アレッポじゃない。お前たちと別れたあとに、フロントの男に『明日、お前たちはどこへ行くんだ』と尋問されたんだ。お前らのパスポートの情報も今頃、首都ダマスカスに送られているぞ。いいか、デリゾールでは軍と警察の力が非常に強い。目立った行動はするな。ここデリゾールでは、観光客はみんな8時にホテルを出る。遺跡は9時にオープンするからな。普通の観光客は遺跡にしか行かないんだ。だから、6時半に出るのはやめて、8時にしろ。俺が怠けたくてそう言っているんじゃない。そっちのほうが安全だ」
 
 これまでとはまるで違うドライバーの血相に、高野さんも「なんかわかったな。多分、独裁国家では、何をするかよりも、他の人と違った行動をするほうが目立って嫌がられるんだろうな」と分析し、8時出発をOKした。
 
 だが、その後、街中をフラフラ歩いていると、フライドポテトを売っている店先で、警察官がカネも払わずにプライドポテトを勝手に食っている現場を目撃。先ほど「この街では軍と警察の力が強い」という情報をインプットされていたこともあり、「なんか、警察が威張っている感じがしてイヤだなあ」と思っていると、店の人間がその警官をこずくではないか。ありゃ、大変なことにならないか、と思っていたら、その警官はヘラヘラと笑っており、顔なじみなのかわからないが、人々が警察を恐れているのかどうなのかわからなくなってしまった。

 さらに翌日、一日の旅を終えてデリゾールに戻ってくると、ドライバーが一通を逆走して警察に捕まるという事件が発生! 「俺はプロフェッショナルだ、と言ってたくせに一通逆走かよ」と呆れていると、ドライバーが必死に言い訳をして、なんと高額な罰金を免除され、おとがめなしに。ますます「本当に警察が強いのか?」と疑問が強くなったりもした。逆に日本の警察官では考えられないルーズさだ。

 とはいえ、このようにしょっちゅう警官を見かけるほど、街角のあちらこちらに警官が立っており、なかなか生きづらそうな街ではあった。反政府デモが起きるのも、ある意味納得である。

 さて、このような騒動もあったので、シリアから出国するときに一悶着あるかな、と構えていたが、まったくお咎めなしにあっさりと出国でき、「あの秘密警察騒ぎはなんだったんだ」と脱力したが、ドライバーが過剰に恐れるほど、秘密警察の力が強いということだろう。
 一日も早く、現在の混乱が解消され、シリアに自由な国家体制が樹立されることを祈る。

文/織田曜一郎(本誌)

デリゾールの街の一角

アサド前大統領の立像もあり、夜にはライトアップされていた




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