92歳の写真家・福島菊次郎が再び脚光を浴びている理由――ジャーナリスト堤未果氏が語る
『ルポ 貧困大国アメリカII』『社会の真実の見つけかた』(ともに岩波書店)など。今年6月に『ルポ 貧困大国アメリカ』の第三部を上梓予定
【福島菊次郎】
1921年、山口県下松市生まれ。敗戦直後の広島で、被爆者家族を10年にわたって撮り続けた作品『ピカドン ある原爆被災者の記録』で日本写真評論家賞特別賞を受賞。その後上京して「文藝春秋」などに寄稿。その後、瀬戸内海の無人島生活を経て現在は山口県柳井市に在住。“ニッポンの嘘”をテーマに写真を撮り続けている。今年3月に写真集『証言と遺言』(DAYS JAPAN)を上梓した
福島菊次郎氏を追ったドキュメンタリー映画「ニッポンの嘘」も全国各地で上映会を開催中(3/30東京都世田谷区、4/20山口県柳井市など)。詳しくはFacebookの映画公式ページにて。http://www.facebook.com/Nipponnouso
※本記事は、3/18発売の週刊SPA!「福島菊次郎 92歳の写真家が撮り続けた日本の姿」特集記事の原稿に堤未果氏が加筆修正したものです。
福島菊次郎さんは、私が尊敬するジャーナリストの一人です。その写真の魅力とは、時代が変わっても全くブレない、自分の視点を貫いているということ、人間に対する愛情があること。例えば取材対象にいきなりカメラを向けようとはせず、何度も通って人間関係を作ってから写真を撮るという手間をかける。だから出来上がった写真に、撮っていない時のドラマもすけてみえるような気がして、ずっしりくるのです。
私もアメリカの「報道されない」部分を取材しています。そういったものを追いかける時の危険は、スクープを追うあまり、相手が人間であるということを忘れてしまう事。そうならない為に、常に「人間を通して」社会をみる事を自分に問わなければなりません。福島さんの写真をみるたびに、報道が絶対に失ってはいけないものについて、考えさせられます。
福島さんが脚光を浴びていた’60~’80年代は、「おかしいことはおかしい」と国民が声をあげていた時代。ジャーナリストや学者もその先導をきっていました。ところが‘80年代に入って、「正しいことよりも、経済成長のほうが大事」だということになってしまった。一億総中流のぬるま湯の中で、ジャーナリズムも含め、みんな守りに入るようになり、理不尽な権力との戦いも、多くの国民にとって遠い過去になっていった。
でも福島さんは変わらなかった。自衛隊と軍需産業という国家権力中枢の内部を暴いたことで、暴漢に襲われ自宅に放火されても、ジャーナリストとして、「権力」より「真実の使徒」であろうとし続けたのです。
いま再び福島さんが脚光を浴びるようになったのは、原発事故を前から警告してきた事だけでなく、権力の暴走へのセンサーを鈍らせない生き方が、今の日本人を揺さぶるからでしょう。
この国が経済的に豊かになった数十年の間に、私たちの中から抜け落ちた、大切な記憶があるのです。今は技術の進歩と商業化で、ニュースは毎日高速でやってくる商品になった。線でなく点の報道ばかりみている私たちは、今、過去からトレースして福島の震災を考える力がなくなっているのです。目の前の現象しか見なければ歴史から学べず、未来は決して創れない。そんな今の日本で、失われた過去と現在を繋いでくれるのが、福島菊次郎という写真家でしょう。
ジャーナリズムの使命とは何なのか。3・11は何故過去であり未来なのか。福島さんに手渡されたものをしっかりと引き継いでいかなければと思います。
【堤未果】
ジャーナリスト。著書に
『週刊SPA!3/26号(3/18発売)』 表紙の人/中川翔子 電子雑誌版も発売中! 詳細・購入はこちらから ※バックナンバーもいつでも買って、すぐ読める! |
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