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“悪の帝国”ヤンキース、マンCとコラボで英国進出か

 世界屈指の金満プロスポーツチーム同士による電撃コラボは、スポーツの世界地図を大きく塗り替えるキッカケになりそうだ。

 米メジャーリーグの名門ニューヨーク・ヤンキースと、英プレミアリーグの強豪マンチェスター・シティ(マンC)が、共同で新たなプロサッカークラブ「ニューヨークシティFC」を設立する構想を発表した。早ければ2015年にもアメリカのプロサッカーリーグ、MLS(米メジャーリーグ・サッカー)に参戦する。

5月25日には、ヤンキースの本拠地ヤンキースタジアムで、マンCとチェルシーの親善試合が行われた。2009年にオープンした現スタジアムは、サッカーの試合もできるように設計されたとも

 先日現役引退を発表したデビッド・ベッカム(元ロサンゼルス・ギャラクシー)らの活躍もあり、近年世界的に注目度を増しているMLS。長年「サッカー不毛の地」といわれていたアメリカだが、近年は子供たちの間でのサッカー人気を受けて、サッカー競技人口が激増しているともいわれる。ヤンキースとマンCのコラボは、アメリカでのサッカーブームをさらに加速させることは間違いない。

◆欧州進出を目論むMLBの思惑

「アメリカのサッカー市場開拓」「ヤンキースのサッカー界進出」といった文脈で語られている両クラブの提携だが、その一方で虎視眈々とヨーロッパ市場開拓を目論むMLBの思惑も垣間見える。

 MLBは2000年頃から、国際市場の開拓に本腰を入れている。選手の国際化(今季開幕時点で、メジャーリーグ全選手の28.2%がアメリカ以外の国で生まれた選手)やインターネットメディアの発展により、日本をはじめ多くの地域でMLBはグッと身近な存在になった。日本やプエルトリコではすでに公式戦が開催されているほか、3月のWBCでベスト4進出を果たしたオランダでも、早ければ2014年に公式戦が開催される見込みだ。

 欧州の野球強豪国として知られるオランダやイタリアに比べると、「サッカー発祥の地」イギリスでの野球人気はまだまだといったところ。しかし、共に世界最高峰のプロスポーツリーグであるプレミアリーグとMLBは、既にマネジメントレベルでは深い交流がある。

 たとえばプレミアリーグでは2000年代後半、移籍金の高騰などによりクラブの破産が相次いだ。経営改善を迫られたプレミアリーグはこのとき、チーム数や戦力バランスを規制で管理してリーグ全体の安定経営を目指すMLB式マネジメントにヒントを求めた。また『マネー・ボール』で広く世に広まった、データ分析をチーム編成に活かす「セイバーメトリックス」の手法もプレミアリーグに輸出され、(野球と違いデータが少ないため)客観的な評価が難しいとされていたサッカー界に新風を吹き込んだ。

5月17日のヤンキース対ブルージェイズ戦では、元フランス代表で現在マンCの育成・発展部長を務めるパトリック・ビエラ氏が始球式に登場した。後ろは黒田博樹

 今回マンCと手を組んだヤンキースも、以前から北米でのサッカー人気の高まりを予想し、過去にはマンチェスター・ユナイテッドと業務提携したほか、所有するテレビ局でアーセナル戦の放映もしていた。それはサッカー界への進出と同時に、ヤンキースというブランドを世界に知らしめていく活動でもあった。

 ヤンキースにとってマンCとのコラボはサッカー界への本格参戦を意味するが、もうひとつの狙いはズバリ「イギリスでのヤンキース戦開催」だろう。事実、ヤンキース球団社長のランディー・レバイン氏も既に、マンCの本拠地であるエディハド・スタジアムで公式戦を開催したい意思を示している。

 イギリスにおいてサッカーは、昔も今も労働者階級のスポーツである。良くも悪くも「暴力的で野蛮」なイメージが付きまとう。一方のヤンキースは、圧倒的な資金力にモノを言わせた強引な球団経営から「悪の帝国」と揶揄される傍ら、「ヒゲ・長髪禁止」「遠征時のドレスコードはスーツ」などMLBで最も紳士的な球団イメージでも知られる。

 ニューヨークの球団らしいヤンキースの洗練された世界観は、イギリスでは意外にも新鮮味を持って受け入れられるかもしれない。

<取材・文/スポーツカルチャー研究所>
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海外スポーツに精通したライターによる、メディアコンテンツ制作ユニット。スポーツが持つ多様な魅力(=ダイバーシティ)を発信し、多様なライフスタイルを促進させる。日刊SPA!ではMLBの速報記事を中心に担当




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