渋谷スペイン坂の通行人を驚かした鹿【鹿の解体×音楽イベント1万字ルポvol.2】

「水曜日のカンパネラ」という音楽ユニットが11月4日、渋谷のライブハウス「WWW」で主催した音楽イベントで「鹿の解体」を行った。今回のイベントは「決してグロテスクなものを見せたいわけじゃない」と語るコムアイ氏。イベント当日の一日に密着した。

⇒【ルポ1】「鹿の解体はショー足り得るのか?」はコチラ

※鹿の死体の写真を掲載します。ご了承の上、お読みください。

 11月4日、午前11時9分。渋谷のスペイン坂上にあるライブハウス「WWW」前に一台の白い軽トラックが到着した。運転するのはコムアイ氏の「解体の師匠」、佐野琢哉氏。山梨県北杜市で「酒麺房 さの屋」というラーメン居酒屋を経営するイケメンの33歳だ。もともとは静岡県の出身だが、山梨県のホテルで料理人として働くうちに地元の猟師さんたちと交友ができ、鹿や猪などを仕入れて解体するようになった。独立した今は、自分の店で鹿や猪の料理も出しながら、時折「解体ワークショップ」などを主宰している。今日は鹿の解体をコムアイ氏とともに行うべく、早朝から鹿とともに山梨県からやってきたのだ。

鹿の解体×音楽イベント

渋谷の街に突如現れた鹿の状態を確認するコムアイ氏

「おはようございます! 今日はよろしく!」と爽やかに挨拶を交わす佐野氏とコムアイ氏。荷台にかれられた緑のシートを外すと、ブルーシートにくるまれ、足だけが見えている鹿がいた。いつ捕獲された鹿なのかと佐野氏に聞くと「昨日獲れた」とのこと。ブルーシートをめくってみると「ハラ抜き」という内臓を抜き取る処理が施されており、腹の部分が開けられている状態で寝ている。

 角が生えているのでオス。角は枝分かれしていない状態で、「これは去年生まれた証拠」とのことだ。だいたい45kgぐらいで「ハラ抜き35kgぐらいじゃないかな」という。この世界では「ハラ抜き○○kg」と内臓を取り除いた状態で獣の重さを説明する習慣のようだ。

 ブルーシートを元に戻し、佐野氏とスタッフたちがライブハウスへと運搬する。渋谷の街に突如現れた鹿は、足しか見えないにも関わらず、当然のように街行く人々の注目を集める。「ん?」と振り返り、「鹿?」「ヤバイ」などの声を発する通行人たち。興味津々で見ていた中学生か高校生ぐらいに見える少女たちに「これから音楽イベントで鹿の解体をするんですよ」と教えると、「なんで? 気持ち悪ーい」との反応。そりゃそうだ。突然そんなことを言われても、確かに意味がわからない。

鹿の解体×音楽イベント

鹿を運搬してスペイン坂を下る佐野氏(写真手前)とスタッフ。街行く人々が次々と振り返る。

 鹿の運搬を終え、ステージの確認と簡単な打ち合わせをする佐野氏。事前に山梨県で行われた打ち合わせでは、鹿の毛皮を剥いた状態で始める、という話になっていたが、現状、鹿に毛皮はついたままだ。

「足を剥いて、ロース出せばいいんでしょ。俺一人だったら急げば20分で終わらせられるよ」

 佐野氏が語る。今回の鹿の解体には30分のタイムテーブルが組まれていたが、どこまで解体を見せられるか、ということで「(皮剥き作業を)半身だけ終わらせとく?」などのやりとりが佐野氏とコムアイ氏との間で行われていた。

 実は鹿の毛皮を事前に剥いでくるかどうか、という部分も、今回ステージで解体した鹿を観客に供さないという判断をした原因のひとつになっていた。現状、野生鳥獣に関しては国が定める衛生管理の基準がない。だが、近年急増している鹿肉の処理場では、各自治体が保健所の指導の下、牛豚などの家畜の食肉処理の衛生基準を適用して雑菌などが肉に付かないように、毛皮を剥ぐ作業と、それ以降の解体を別室にしていることが多いようだ。すべての鹿肉処理場がその基準を適用しているかまではわからないが、東京都で鹿肉処理場がある奥多摩町ではその基準を適応しているし、厚生労働省に聞いたところ「各自治体の保健所の判断になるので断言はできないが、おおむねそのように処理されていると思われる」とのコメントがあった。

 だが、山で解体をするときにそのような厳密な処理ができるわけもない。従って、猟師が鹿を捕獲し、解体した場合では自己責任での「自家処理」が基本となる。

 一方、鹿の肉を解体して販売するとなると、鹿肉処理場を通さずとも、「食肉処理業」の許可が保健所から与えられていれば、問題はない。ただし、この許可は施設に与えられるもので、ライブハウスという施設が「食肉処理業」の許可を持っているわけもない。従って、今回ステージで解体された鹿の肉を観客に売ったりすることはできない。

 つまり、今回は山で行われている解体をほぼそのまま、血抜き、ハラ抜きといった捕獲直後に終わらせなければならない部分以外を都会で見せる、という趣向になっているのだ(ちなみに、先まわって書いておくと、ステージで解体された鹿の肉は、希望する関係者に「自己責任で自家処理」を条件に配られた。おいしかったし、現状、健康に何の害も及ぼしていない)。

 その後、12時6分から行われた「鹿の解体」のリハーサルでは、佐野氏お手製の鹿を解体する台(通称:鹿台)と、解体した肉を置く白テーブルをどこに置くかなどをシミュレーション。汚れないように舞台にはブルーシートが敷かれ、白テーブルの上には透明なビニールシートが敷かれた。

 それを観客席からチェックしていたコムアイ氏が「ビニールシートの質感、イヤじゃないですか?」とスタッフに確認をし出した。「なんか、周りが土じゃないとイヤな感じがする」と気にしているようだ。

 それを受けて佐野氏も「鹿の解体は俺にとって日常だけど、今日は解体する場所が日常じゃないからな」と一言。実際に自然の中での解体を経験している2人も、照明やドラムセットなどが設置されたステージでの解体には違和感を覚えたようだ。

 リハーサルの最中、佐野氏にステージで観客を前に解体をすることに緊張はしないか、と聞いてみたところ、「緊張はしないですねぇ。まあ、歌えって言われたら緊張するけど」と破顔一笑。その後も、佐野氏とコムアイ氏はどうやったら観客に鹿の解体が一番よく見えるかを入念に打ち合わせていた。

 解体のリハ終了後、コムアイ氏に本番前の意気込みを聞いてみたところ、意外な答えが返ってきた。

「思ったより不気味なことやってる、と今気づきました。妙なことやっているな、と」

 やはり、土のある自然の中と、都会のライブハウスでは見え方が異なるのは当然のこと。あえて都会で見せることに意義を見出していたコムアイ氏だったが、本番前の緊張からか、若干弱気な顔を見せた。

 その「妙なこと」が、あと数時間後にはいよいよ観客の前で披露されることになる。 <取材・文/織田曜一郎(本誌) 撮影/難波雄史>

※引き続き、【ルポ3】「いよいよライブハウスで鹿の解体がはじまる」でも鹿の死体の写真を掲載します。ご了承の上、お進みください。

― 鹿の解体×音楽イベント1万字ルポ【2】 ―

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