鈴木貴子議員「袴田事件の冤罪証明」は親子2代のライフワーク
「袴田事件への取り組みの最終目的は、日本の司法や刑事裁判や検察が抱える課題の検証と見直し、そして冤罪を防ぐための法整備をすることです。私自身、13年前の鈴木宗男バッシングを経験したことで、誰でも被害者になることを実感しました。『明日は我が身』ということなのです」
ジャーナリスト。『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)編集協力、『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数
こう話すのは、“宗男事件”で実刑判決を受けた「新党大地」鈴木宗男代表の長女、鈴木貴子衆院議員だ。「事件が起きる前は、今のような問題意識を持っていたわけではありません」と振り返りながら、「新党大地の結党以来、訴えてきた公約の一つが『公平公正な社会を目指す』です。袴田事件への取り組みは、その理念を具体化することに当たるのです」と強調した。
宗男氏は国会議員時代に「袴田巖死刑囚救援議員連盟」を立ち上げ、事務局を担った。しかし自身が実刑判決で東京拘置所に収監されることになったため、娘の貴子氏に「『真実がなぜ通らないのか』との声を上げ続けなければならない。引き継いでほしい」と、その思いを託した。そして永田町で最年少の国会議員となった今、親子2代にわたる“ライフワーク”に力を注ぐことになったのだ。
今年3月18日、しばらく休眠状態に近かった「袴田巌死刑囚救援議員連盟」の総会が開かれた。貴子氏は事務局次長に就任。「袴田死刑囚においては、たくさんの科学的な新証拠、冤罪を証明してくれる証拠がある」「不当な権力との闘いである」と挨拶した。
所属する「法務委員会」でも袴田事件のことを何回も取り上げ、検察を厳しく問い質した場面もあった。周りの国会議員は「あそこまで厳しくは言えない。私にはできないな」と驚いた。権力に異を唱えることによる報復を恐れているわけだが、それでも貴子氏はひるまない。
「袴田事件の現実を知ったいま『知らない』と黙っている勇気は私にはありません。私は法律のプロではありませんが、重要証拠であったズボンを袴田さんがはけないなど、死刑判決はどう考えてもおかしい。再審で裁判長は『捜査機関が証拠をねつ造した疑い』『耐えがたいほど正義に反する』と批判しましたが、こんなことが罷り通っていいはずがありません。国会議員は、国民の代表であるがゆえに発言権が与えられています。袴田事件に対して声を上げないことは、国会議員の義務を果たしていないと思うのです」
袴田事件では、検察にとって都合が悪い証拠が出てこなかったことがあった。そこで貴子氏は、検察に都合のいい証拠だけが採用されることを防ぐために「証拠全面的開示の制度導入」に関する質問主意書を提出。しかし政府からは、制度導入に慎重な回答しか返ってこなかった。
「袴田事件には、今の司法が抱えている問題が凝縮されています。証拠の改ざんや自白強要、調書の虚偽記載や誤認逮捕などですが、克服すべき課題が明らかになりました。警察・検察は罪なき無実の人から48年間もの自由を奪ったのに、それでも『法と正義に基づいて捜査活動を行っているものと承知している』と非を認めていません。検察も弁護士も人間ですから時には過ちを犯します。一旦立ち止まって見直すべきです」
<取材・文・撮影/横田一>
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