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「日本国憲法はデタラメ」憲政史研究者・倉山満

倉山満

倉山満氏

 憲法記念日である5月3日を「ゴミの日です」と、こき下ろすのは憲政史家の倉山満氏だ。「日本国はアメリカによって民主化され、1947年5月3日、平和憲法として日本国憲法が施行された――」と遠い昔に学校で習ったような気がするのだが、倉山氏は「マッカーサーの落書きにすぎないものを、いちいちありがたがるなど日本人はどれほど奴隷根性なのか」と容赦ない。「戦後最大のタブーに迫る!」銘打たれた新刊『帝国憲法の真実』では、帝国憲法と日本国憲法を比較し、日本国憲法を徹底的に批判している。その真意とは何か、著者に聞いた。 ――日本人は「明治憲法は悪の憲法であり、アメリカのおかげで過去の遺物にすることができた。一方の日本国憲法は素晴らしい憲法だ」と教えられて育ちます。それに対して、真っ向から反論されているわけですが、なぜ今まで倉山さんのような言論がなかったのでしょうか? 「敗戦後の日本では、大日本帝国憲法はタブー中のタブーです。とくに東京大学の憲法学を中心とする学界では、正式略称である『帝国憲法』という単語さえ使わせませんでした。日本国憲法学の祖である宮沢俊義東京大学教授が『過去の遺物である』というニュアンスで『明治憲法』を提唱し、いつの間にかテクニカルタームとして定着させたからです。しかし私は、日本国憲法より先に帝国憲法について学ぶという、異端児であったため、そのくびきからは逃れることができました。ですから、帝国憲法について語り、容赦なく日本国憲法を批判できる、とも言うことができます。そしてまず、言っておきたいのは、そもそも日本国憲法は、日本を敗戦国のままに留めておきたい人がつくったということです。まともな軍事力を持たせないようにして、民族ごと奴隷にしようとしました。また靖国神社を標的にして、日本人が家族のために命を捨てるという行為を蛮行だと断じ、日本人の誇りを奪おうとしました。マッカーサーとその下僚たちは、そのために日本国憲法をつくり、日本に押し付けたのです」 ――現在の日本では、「憲法9条にノーベル平和賞を!」「世界遺産に!」と掲げる人たちもいるくらい、日本国憲法、とくに9条は国民に支持されているようにも思います。それは間違っていると? 「占領下にあって日本に選択肢は二つしかありませんでした。一つはマッカーサーの覚書をそのまま受諾すること、もう一つは最低限の手直しをすること、です。日本政府は厳しい現実として後者を選びます。9条を議論する際に理解しておいてほしいのは、マッカーサーの覚書は主権国家としてあまりも恥ずかしい憲法だったので、なんとか手直しをしたという事実です。たとえば覚書には『日本が陸海空軍を保有することは、将来ともに許可されることがなく、日本軍に交戦権が与えられることもない』とあります。実際の9条2項『国の交戦権は、これを認めない』と比べてみてください。誰が誰に対して認めないないのか? マッカーサーが日本国に対して『認めない』のです。9条はマッカーサーの日本国に対する命令書であり、そんな代物を最高法規の条文に戴く必要などない、日本には日本の歴史・文化・伝統に則った帝国憲法がある、というのが私の立場です。そもそも自衛隊は軍隊だと思いますか?」 ――あれだけの戦力がありますから、軍隊だと思います。 「違います。9条の制約で軍隊を名乗れないから憲法を改正して自衛隊を正式に軍隊だと認めるべきだという人もいるのですが、まるでわかっていません。軍隊の定義は国際法によって行われ、国家と国家がそれぞれの軍隊を『ウチの軍隊を軍隊だと承認してくれたら、オタクの軍隊も軍隊として承認しましょう』と合意してはじめて認められます。国際法の要件は4つあり、(1)責任ある指揮官の指揮のもとに、(2)識別しうる標識を有し、(3)公然と武器を携行し、(4)戦争法規を守る集団であること、です。軍隊は義務を果たすからこそ、人を殺しても殺人罪には問われず、また捕虜になる資格も得るのです。そもそも主権国家は構成員すべてから暴力を取り上げ、独占することから始まります。独占された暴力とはつまり、国内の治安を守る警察力であり、外敵と戦う軍事力です。普通の国では、国際法で認められるよう国内法を整備し、むしろ境界線上の怪しい集団を『これは軍隊だ』と言い張って認めさせることが外交官の仕事になるほどです。ところが、日本は自衛隊を『軍隊ではない』と言ってきた。これがどういった事態を招くのか、想像してみてください。いかに9条がデタラメかわかるでしょう。自ら、私は軍隊としての権利はいりません。捕虜になる資格もなく殺されていいですし、何かのときに人を殺したら我々自衛官は殺人犯です、となりかねない。よく、自衛隊は雁字搦めに縛られていると言われますが、こういうことなのです。こんな状態で、国家を守れるかどうかという問題なのです」 ――しかし、今「帝国憲法」と聞いても、正直ピンときません。「日本を滅ぼした悪の憲法」という漠然としたイメージしかないのですが……。 「帝国憲法は明治帝を筆頭とする先人たちが『世界に対して文明国として胸を張って生きていこう』と考えに考え抜いて定めた憲法です。いつ滅ぼされるかわからないという緊張感のなかで、日清・日露戦争を勝ち、国民の自由を守りました。それは決して野放しではなく、秩序と責任を伴った自由です。そのあたりは『帝国憲法の真実』に書いてありますのでぜひ、ぜひ読んでみてください」  憲法改正論議や集団的自衛権の解釈問題がかまびすしい昨今だが、伊藤博文らが10年かけてつくった帝国憲法から論議を始めてみてはいかがだろうか。 【倉山満氏】 憲政史研究者。シリーズ累計20万部を突破したベストセラー『嘘だらけの日米近現代史』『嘘だらけの日中近現代史』『嘘だらけの日韓近現代史』に続く、「保守入門シリーズ」『保守の心得』、5月1日に『帝国憲法の真実』を発売 <取材・文/犬飼孝司 撮影/本多誠>
帝国憲法の真実

「保守入門シリーズ」第2弾

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