倉山満「保守を自任するなら、帝国憲法について語れ」
―[倉山氏の新刊『保守の心得』]―
前回、「帝国憲法をタブーから解き放つ(https://nikkan-spa.jp/588543)」と宣言した憲政史家の倉山満氏。そもそも現行の日本国憲法と明治22年2月11日(1889年)に公布された大日本帝国憲法は何が違うのか? そして、帝国憲法はなぜタブーになったのか? 新刊『保守の心得』を上梓した倉山満氏に聞いた。
「明治時代、日本が生き残るために必要だったのは、西欧の人々が納得するような憲法や法体系でした。憲法がなければ、不平等条約も改正できず、西欧に伍することはありないからです。そこで伊藤博文らが、西欧のサル真似ではなく、日本の歴史、文化、伝統に則りながら、西欧をも凌駕するような気概で作ったのが大日本帝国憲法でした。日本古来よりある十七条憲法と五箇条の御誓文から『古事記』『日本書紀』までを徹底的に研究し、たとえば、議会制民主主義は『孝徳天皇や天智天皇のころよりから日本は話し合いで政治をやってきた、天皇が臣下と相談せずに物事を進めるという伝統は我が国にはない』というふうに解釈し解説書を著しました。西欧の流儀を取り入れつつも、日本の伝統には則る。変わりゆく伝統のなかで歴史を紡ぐことを決意したのです。帝国憲法に書かれている国家観は『日本は天皇の国である』という一言に尽きます。これまでの日本は天皇によって統治されてきたことを条文で定めるのではなく、改めて『確認する』という内容になっています」
伊藤博文らは10年近くもの時間をかけて、伝統と国益が両立する憲法を作りあげた、と。一方の日本国憲法はマッカーサーの落書きをもとに素人が1週間で書き上げてものだと言われていいます。
「かけた労力もさることながら、両者の最大の違いを端的に言えば、有事を想定していないことにあります。日本人が本当の意味で天皇を必要とするのは、『いざ』という有事です。有事とは国家事変、戦争、天災の三つで、これらが起こったとき、天皇は日本の中心となって、国を滅亡から救う役割が求められるのです。たとえば、国家事変の典型は二・二六事件ですが、クーデターによって内閣がなくなったとき、反乱軍討伐の方針を示したのは昭和天皇でした。帝国憲法では、『いざ』というときに日本国の本来の持ち主として、天皇は麻痺した政府機能を回復する役割を担っているのです」
東日本大震災で菅直人首相が右往左往するなか、米軍は自由に動き回っていた現在とはまるで様相が違います。
「マッカーサーは日本を奴隷化するために、『いざ』というときの文言をわざと入れなかった。現在の日本は、平和憲法という名の占領憲法と日米安保条約によって、『いざ』というときの役割を米軍に委ねてしまっています。米軍がいなければ、有事を切り抜けられないような現状を『滅亡』と考えるか、それとも首の皮一枚でつながっていると考えるのか。戦後生まれの日本人にとっては当たり前の日常ですが、本当にいまのままでいいのでしょうか? そう言うと、70年間も日本国憲法をありがたく奉ってきた世代の思いはどうなるのか!と怒り出す人がいるのですが、知ったことではありません。若い世代ははっきり言えばいいのです。現行憲法を後生大事にしているから、若者が不幸になるのだと。日本という国を真剣に考えて作られたのは帝国憲法です。帝国憲法どころか、憲法改正を口にするだけでも、アジア近隣諸国の顔色をうかがわなければならないなど、日本は本当に独立国なのでしょうか。政治家に圧力がかかるなら、国民が力を結集すべきでしょう」
日本が敗戦国のままでいることによって利益を得ている勢力がいる限り、憲法の見直しは進まないだろう。だからこそ、倉山氏は「日本は好きだけど何をしたらいいのかわからない」という人に「成熟した保守になれ! 帝国憲法はタブーではない!」と提言している。倉山氏の新刊『保守の心得』は言論界に一石を投じる書になりそうだ。<取材・文/犬飼孝司 写真/本多 誠>
【プロフィール】
倉山満氏。憲政史研究者。シリーズ累計20万部を突破したベストセラー『嘘だらけの日米近現代史』『嘘だらけの日中近現代史』『嘘だらけの日韓近現代史』に続いて、『保守の心得』を3月1日に発売
『保守の心得』 学校では教えてくれない「保守入門」の書 |
この特集の前回記事
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ