炎上中のNY911記念博物館。非難轟々のグッズデザインとは?

―[911記念博物館]―
 ニューヨークのワールドトレードセンターなどを狙った同時多発テロから13年。  ツインタワーとして親しまれたあの高層ビルが崩壊する2001年9月11日の光景は今も記憶から拭い去れない人が多いだろうが、そんな悲劇的テロ事件現場のグラウンドゼロに5月21日、911記念博物館がオープンした。総工費7億ドル(約710億円)ドルのモダンなデザインの建物は大きな話題になり、オープニングセレモニーはテレビで生中継されたほど注目を集めた。  ところが、そんな注目の記念博物館が、実は密かに炎上中なのだという。あまりにさまざまな批判を浴びせられ、大変なことになっている。  高過ぎる入館料や、イスラム教の影響をミスリードする館内上映などについては前編(https://nikkan-spa.jp/653339)で触れたが、後編はもっとも集中砲火を浴びている博物館にあるギフトショップ、カフェ、イベントスペースについて触れていこう。 ◆惨事があったツインタワーをデザインしたグッズに非難殺到  なぜギフトショップなどが非難されるか? 批判の内容は、「3000人の犠牲者を出し身元の分からない8000人の死体や体の一部がいまだに保管されたままになっているグラウンドゼロにギフトショップなど出して商売するのはいかがなものか」という声が圧倒的に多い。カフェも同じ理由である。イベントスペースについても「このような場所でパーティなんかできるか」という怒りの声が上がっている。  ギフトショップで販売している商品についても、クレームが入っている。  批判が殺到しているものの1つは、米国領土を模ったクリーム色のセラミックプレートのディスプレイだ。ショーケースの中に飾られた直径80センチほどの米国領土プレートには、3か所にハートの印がつけられている。その3か所というのが、911で攻撃されたニューヨークのワールドトレードセンターがある場所とペンタゴン、そしてハイジャックされた航空機が墜落したペンシルバニア州シャンクスビル。悲劇のテロ事件現場にハートママークとは一体何事か、というわけである。  ギフトショップの商品に関するクレームはまだまだある。  ハイジャックされた旅客機が突っ込み崩壊したワールドトレードセンターのツインビルのイラストがプリントされたパーカー、マグカップ、Tシャツなどである。「惨事のあったツインタワーが商売道具に使われている」「こんな商売をするなんてデリカシーがなさすぎる」などなどの声が殺到しているという。  記者も早速、炎上中のミュージアムショップへ行ってみた。  やり玉に挙がっていたセラミックの合衆国領土プレートは、あまりに批判が多かったためかオープンから1週間程度で撤去されていた。ツインビルのパーカーやTシャツも見当たらない。今、ショップに並んでいるのは、911同時多発テロ発生後に救助で活躍したNYPD(ニューヨーク警察)、NYFD(ニューヨーク消防)のロゴが入ったTシャツや帽などのヒーローグッズ、星条旗の旗や星条旗がプリントされたTシャツ、マグカップ、iPhoneケースなどの愛国グッズが中心だ。  パーカーは販売しているが、ツインタワーのイラストがプリントされたものは見当たらず「911メモリアル」という文字の刺繍が入った地味めのものが売られていた。しかしお値段は地味とはいえず、1着48ドルとなかなかお高い。  ミュージアムカフェは、博物館のオープンからやや遅れ今夏に開店する予定だが、その詳細はすでに明らかにされている。全80席を備えた広大な店舗のカフェで、ニューヨークの地ビールや国産ワインを数多く取りそろえたベジタリアン中心のヘルシーフードを提供する、いまどき流行りのテイストを前面に出しているらしい。  多くの批判に対して博物館のジョー・ダニエルズ館長は「博物館の運営に年間6500万ドル(約66億円)かかる。国からは援助も受けていない。決して収益を上げているわけではない」と話している。またカフェについては「ゲッティスバーグの南北戦争をテーマにした博物館にもレストランはあるし、ユダヤ人大量虐殺の犠牲者を追悼したイスラエルの国立記念館ヤド・ヴァシェムにもレストランはある」と反論している。  これに対し批判する人たちの言い分は「ゲッティスバーグの戦いは151年前だが、911はたったの13年前じゃないか。ヤド・ヴァシェムは虐殺があった場所に建っているわけじゃない」というもの。911記念博物館はオープン後、館を訪れる人が連日行列を作りなかなかの盛況だが、批判の声もしばらくは賑やかなまま続きそうだ。 <取材・文・撮影/水次祥子>
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