金融緩和という壮大な“社会実験”は成功するのか?
―[[超円安]時代のマネー術]―
12月、1ドル=121円をつけたが、中長期的にはさらなる円安が進みそうだ。来る円安時代、私たちは今、何をすべきなのかを探った。
◆超円安時代に日本が進む道は?東京五輪開催の’20年が分水嶺に
円安を警戒する声も多いが、低金利下での円安はそれほど深刻な問題ではなく、「注意すべきは、為替より金利」と作家の橘玲氏は指摘する。
「アベノミクスの理論は、マイルドなインフレと円安に誘導することで景気が回復し、賃金も増加。その後、金利が上昇するというシナリオですが、順番どおりに進むかは誰にもわかりません。デフレが20年続いた日本では、経済全体がデフレに最適化されている。金利が上昇すると、低金利を前提にローンを組んでいるサラリーマンや、資金調達をしている中小企業が破綻してしまいます」
ハイパーインフレのような極論ではなく、「借入金利が5%程度に上昇しただけでも、衝撃は大きいでしょう」と警鐘を鳴らす。
「日銀が国債を買い続けることで金利の上昇を抑えていますが、その壮大な“社会実験”が成功するかどうか。団塊世代が70代を迎え、五輪関連の投資もなくなる’20年頃がターニングポイントでしょう」
再雇用で働き続けていた人たちも完全に退職し、労働人口が減少するなか、高齢化で医療費や介護保険料の急激な拡大が予想される。
「その時点で金利が上がっていたら、国の借金はさらに膨らみ、本当の財政危機が迫るでしょう。最後は欧州のように消費税を20%以上に引き上げることになるのでしょうが、それでも厳しい状況です」
先が見えないなか、日本はどんな社会を目指すべきなのか。橘氏は、EUと米国を比較する。
「社会実験として面白いのは欧州。EUという大きな枠組みのなかで各国が各々の社会制度を競っているわけですが、どの国の制度が効率的でパフォーマンスがいいのか、近年、その結果が出てきつつあります」
それがドイツや北欧など、北部に位置する国々だ。
「北欧型の福祉国家は、実は’80年代に財政が立ち行かなくなり、自由競争を取り入れるようになっているんです。解雇も自由になりました。その代わり、失業者の保険や再教育の費用などは国が負担。しっかりしたセーフティネットがありつつ、新自由主義(ネオリベ)型の市場経済も導入した“ネオリベ型福祉国家”こそが、行き着いた結論なのです」
一方で、もともとが自由競争の国である米国は、オバマ政権が医療保険制度改革を進めている。
「米国も自由な市場にセーフティネットを取り入れることで、やはり“ネオリベ型福祉国家”に収斂しようとしています。これがグローバルスタンダードとなるわけです。雇用制度など課題も多いですが、日本も同じベクトルに進むべきだということが見えてきたのではないでしょうか」
私たちも円安時代に対応した適切な投資行動を今取れば、未来は決して暗くない。
【橘玲氏】
作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバー。最新刊『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015』が発売中
取材・文/円安時代のマネー術取材班 イラスト/樂我鬼 図版/ミューズグラフィック チャート協力/楽天証券 アンケート協力/リサーチプラス
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