偉人たちに学ぶ「○○は大した問題ではない」語録
生と死、政治とカネの必要悪、働く意義、恋愛で大切なこと……答えが出ないからこそ時として議論になる巷の命題について、さまざまな立場が生み出す感覚のギャップから考えてみた
◆古今東西「大した問題ではない語録」
世の人々が大問題だと騒いでいることを覆す「~は大した問題じゃない」という言葉には、心に深く突き刺さるものが多い。そんな古今東西の「大した問題じゃない語録」を調査したので紹介しよう。
調べてすぐに気づいたのは、「大した問題じゃない」という言葉と、自己啓発の相性の良さ。ココ・シャネルの「実際にどう生きたかということは大した問題ではないのです。大切なのは、どんな人生を夢見たかということだけ」という言葉は何かステキな雰囲気だし、「精一杯生きよ。精一杯に生きないのは間違いだ。自分自身の人生を生きている限り、何をするかは大した問題ではない」(ヘンリー・ジェイムズ『大使たち』)なんて文章に触れると、「明日からオレもやるぞ!」という勇気が湧いてくる。「いいね!」やリツイートしただけだと、翌朝起きた頃には忘れてそうだけど。
しかしこの種の言葉が、叱咤激励に有効なことは確か。
たとえばサッカー界のレジェンド、ヨハン・クライフの「ミスはたいした問題じゃない。要はプレーしたいというひたむきな気持ちがあるかどうかということだ」(『美しく勝利せよ』)なんて言葉は、多くの選手たちを奮い立たせてきたことだろう。SEKAI NO OWARIの深瀬慧も、一緒にステージを作る友達がプレッシャーで押しつぶされそうなときは、「一緒に飲みに行って『大丈夫だよ大丈夫。たいした問題じゃねえよ、お前が1人失敗したところで』みたいな話をすることもあって」と過去のインタビューで言っている。深瀬クン、優しい……。
何だかスケールの小さい話になってしまったが、作家たちも自らを奮い立たせるような「大した問題じゃない」名言を残している。
「すべての人間は一冊の本を書くために生まれたのであって、ほかにはどんな目的もないんだ。天才的な本であろうと、凡庸な本であろうと、そんなことは大した問題じゃない」(アゴタ・クリストフ『ふたりの証拠』)なんて言葉は胸が熱くなる。小説の神様・志賀直哉も、「仕事は目的である。仕事をはっきり目的と思ってやっている者には結果は大した問題ではない」(『青臭帖』)とアツいことを書いている。ただ、平々凡々なサラリーマンが「結果なんてどうでもいいんだ!」と感化されたら、即刻クビになりそうだが……。
結果を度外視しても、それを仕事にできてしまう人は、やはり並外れた情熱を仕事に注ぎ込む人なのだろう。宮崎駿は『ポニョはこうして生まれた。~宮崎駿の思考過程~』の中で「年取ってくるとさ『どうでもいいよ』っていう気分が強くなってくるよね」「大した問題じゃないんですよ、この世のほとんどの問題は」というスゴい境地に達した発言を残している。
なお情熱を注ぐ対象は芸術ではなく社会でもいい。「俺ひとりが生きるか死ぬかなんてたいした問題じゃない、という態度が当たり前になれば、いまの社会を操っているやつらにとって脅威になる」(保坂和志『考える練習』)というのは確かで、社会を変えて歴史に名を刻んだ偉人にはそんな人が多かったのかも。ただそれが、イスラム国の戦闘員を目指した北大生のように、自暴自棄の末の決断だったりすると問題なのだが……。
イラスト/花小金井正幸
― 「大した問題か否か」は人によってこんなに違った!【6】 ―
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