雑学

もっと知りたいWWE。「放送作家っているの?」――フミ斎藤のプロレス講座・第22回

 日刊SPA!読者のみなさん、あけましておめでとうございます。ことしも毎週、プロレスに関するまじめなおはなしをお届けしていきます。

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 読者のTさんから編集部に質問のメールがあったので、今回はWWEについて論じる。質問は以下のような内容だった。

 フミさんのコラム、毎回楽しみにしています。

 最近、WWEのテレビ中継を毎週楽しみにしているのですが、いつも感心するのは、選手たちはあの長い台詞をどうやっておぼえているのかということです。舞台やドラマのようにリハーサルをしている時間もないと思うのですが。

 また、WWEのシナリオ・ライターは何人くらいいて、どのくらい先までストーリーを考えているのか。試合内容やフィニッシュまで完ぺきにコントロールしているのか。もしご存じでしたら教えてください。


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WWE

WWE公式サイトより

 Tさんが毎週楽しみにしているというWWEのテレビ中継は“マンデーナイト・ロウ”と“スマックダウン”の2番組なのだろう。番組のタイトルどおり、アメリカでは“マンデーナイト・ロウ”が月曜夜放映の生中継(3時間)で、“スマックダウン”は金曜夜放映の録画中継(2時間)。昨年から日本国内(スカイパーフェクTV)でもこのふたつの番組がアメリカでの初回放映と同時オンエアの生中継スタイル(英語版)となり、アメリカと日本の時差のまま“ロウ”は毎週火曜午前10時、“スマックダウン”は毎週土曜午前10時――同番組はアメリカではことし1月15日オンエア分から“サーズデーナイト・スマックダウン”として毎週木曜夜に放映時間が変更。これと同時に日本でも放送時間が毎週金曜午前に変更――に観られるようになった。もちろん、両番組とも“字幕スーパー付”のディレー放映もこれまでどおりつづけられている。

 WWEスーパースターの毎週のスケジュールは土曜、日曜がハウスショー(地方公演)で、月曜と火曜の2日間が“ロウ”と“スマックダウン”(火曜はBショー“メインイベント”“スーパースターズ”のTVマッチも同時収録)のテレビ撮り。基本的には1週間を4日間のサイクルで動き、その前後の1日ずつが移動日となる。テレビ出演、イベント出演といったイレギュラーなタレント業務は金曜、土曜にブッキングされるケースが多い。ハウスショー、TVテーピングのほかにはPPV特番(契約式有料放映プログラム)年間12イベントがプロデュースされ、隔月ペースで海外ツアーも開催されている。

 WWEユニバース――WWEを観ている世界じゅうのオーディエンス――がリアルタイムでいちばん目にしているWWEプロダクトが“マンデーナイト・ロウ”であることはいうまでもない。毎週月曜夜の“ロウ”で起きるさまざまな事件の数かずがWWEの連続ドラマの現在進行形のストーリーということになる。

 月曜の“ロウ”も火曜の“スマックダウン”も、基本的にはテレビ番組づくりの現場である。タレント(WWEスーパースターズ)もスタッフもお昼の12時までにアリーナ(試合会場)に全員集合していなければならない。選手グループはいったんアリーナで“出席簿”にサインインしたあと、近くのジムに練習にいったりする場合もあるが、基本的には“本番”が終了するまで1日じゅうアリーナのなかに“缶づめ状態”になる。テレビ番組づくりの現場では、その“番付”に関係なく、タレントはつねにスタンバイの状態を要求される。

 Tさんからの「WWEにシナリオ・ライターは何人くらいいるのですか」という質問に対する答えになっているかどうかはわからないが、“ロウ”と“スマックダウン”のバックステージには“ライター”と呼ばれている人たちが10人くらいいる。ただし、このライターたちは映画や演劇などでいうところの脚本家、シナリオ・ライターではなくて、ポジション的には“放送作家”“構成作家”とカテゴライズされる番組制作グループのなかのクリエイティブ・チームを指している。

 番組の“構成会議”でいろいろなアイディアやプラン、意見などを出すのが放送作家、構成作家の仕事だが、じっさいには企画・運営、制作・進行についての決定権はほとんどない。それは新顔のWWEスーパースターのキャラクター設定に関する草案かもしれないし、リングネームやリングコスチュームについてのアイディアかもしれない。放送作家、構成作家が50本の新しい企画書を提出したとしたら、そのうちの48本くらいまではプロデューサー、ディレクターからその場でダメ出しを食らう。結論からいってしまえば、テレビ番組づくりの現場では“ライター”の地位はそれほど高くない。いちばんエラいエグゼクティブ・プロデューサーはいったいだれなのかといえば、もちろん製作総指揮・監督のビンス・マクマホンである。

 このあたりはひじょうに誤解を受けやすい部分なのできっちりと解説しておいたほうがいいだろう。“マンデーナイト・ロウ”と“スマックダウン”にはテレビ番組としての進行台本があって、その進行台本を“団体競技”として共同執筆しているのが放送作家チームだ。また、WWEスーパースターズの番組内でのマイク・アピールの“台詞”を放送作家チームが“ナレーションおこし”することもある。プロデューサー、ディレクターからのリクエストに応じてすぐに原稿を書くのもまたライターの仕事ということになる。たとえば、“怪力ロシア人”ルーセフとその女性マネジャーのラビッシング・ルナのスピーチはいわゆるフィクションで、放送作家チームが“台本”を担当している。

 ただし、放送作家チームがプロレスそのもののコンテンツ――プロレスの試合――にタッチすることはない。そこがスポーツ・エンターテインメントにおけるスポーツの部分とエンターテインメントの部分のビミョーな境界線ということになるのかもしれないし、ごく単純に“餅は餅屋”ということになるのかもしれないが、プロレスの試合に関してはプロレスの試合をマッチメークする“プロデューサー・チーム”が存在する。ジョン・ローリナイティス(ジョニー・エース)、マイケル・ヘイズ、リッキー・スティムボート、アーン・アンダーソン、デーブ・フィンレー、ジェイミー・ノーブルらが――テレビの画面には登場しない――プロデューサー・チームの顔ぶれだ。

斎藤文彦

斎藤文彦

 Tさんからの質問にあった「選手たちはあの長い台詞をどうやっておぼえているのでしょうか」というところについては、WWEというよりも、プロレスというジャンルの本質を知るためのヒントがそこに隠されているというふうに考えるとわかりやすい。ちょっと信じられないようなおはなしかもしれないが、ブレイ・ワイアットというカルト系キャラクターはブレイ・ワイアット自身の“作品”で、ブレイ・ワイアットは24/7(トゥエンティーフォー・セブン=1日24時間・週に7日間)シフトでブレイ・ワイアットを演じているので、あの長い長い台詞はもはや“台詞”ではない。ディーン・アンブローズもディーン・アンブローズを、ローマン・レインズもローマン・レインズを24/7で演じていて、ファンタジーとリアリティーの境界線のない空間を生きている。

 考えてみれば、ハルク・ホーガンもジョン・シーナも24/7でハルク・ホーガンを演じ、ジョン・シーナを演じている。ジャイアント馬場さんもそうだったし、アントニオ猪木さんはいまでもそうだ。きっと、プロレスとはそういうものなのだろう。ビンス・マクマホンは、テレビの画面には登場しなくても、バックステージの“ゴリラ・ポジション”からWWEユニバースを完ぺきにコントロールしている。トリプルHとステファニー・マクマホンはWWEオーソリティーであると同時にほんとうの夫婦である。マクマホン・ファミリーにとって、WWEのリングで起こっていることはすべて現実なのである。

文責/斎藤文彦 イラスト/おはつ

※斎藤文彦さんへの質問メールは、こちら(https://nikkan-spa.jp/inquiry)に! 件名に「フミ斎藤のプロレス講座」と書いたうえで、お送りください。

※このコラムは毎週更新します。次回は、1月14日~15日頃に掲載予定!


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