雑学

プロレス大河ドラマのオムニバス@後楽園ホール(後編)――「フミ斎藤のプロレス講座」第21回

 プロレス大河ドラマのオムニバス@後楽園ホールの後編は、12・12みちのくプロレス『宇宙大戦争~神々と亀々の戦い~』、12・14全日本プロレス『和田京平レフェリー40周年&還暦記念大会~』の2大会のリポートと年末年始の“聖地”後楽園ホールの話題をいくつかお届けする。

※【前編】はこちら⇒https://nikkan-spa.jp/768353

みちのくプロレス・オフィシャルサイト

みちのくプロレス・オフィシャルサイトより

 12・12みちのくプロレス『宇宙大戦争~神々と亀々の闘い~』後楽園ホール大会は、みちのくプロレスの年度最終興行。『宇宙大戦争』なるコンセプトについてはそのルーツから解説するとかなり時間がかかってしまうので、ここではとりあえず“宇宙の平和”をテーマとしたザ・グレート・サスケとバラモン兄弟(バラモン・シュウ&バラモン・ケイ)の長い長い闘いというふうにとらえておけばまちがいない。

 みちのくプロレスは、ザ・グレート・サスケが日本初の“地方発信型”“地方密着型”のプロレス団体として1992年(平成4年)12月に設立。活動エリアは福島、宮城、岩手、青森、山形、秋田の東北6県で、基本的には春と夏と秋の3シーズンは東北をツアーし、みちのくが雪深くなる冬のあいだだけ東方以外のエリアで“出稼ぎツアー”を展開している。メジャー団体の新日本プロレス、全日本プロレスに次いで日本で3番目に長い歴史を持つ古参団体である。

 創業者サスケがメキシコで修行を積んだ“正体不明のマスクマン”であるため、プロレスのスタイルそのものはメキシコのルチャリブレをベースとした和製ルチャで、旗揚げ当時からの生え抜きメンバーで現在でも団体所属として活躍しているのはサスケ、新崎人生、気仙沼二郎の3人。これまで数えきれないくらいのマスクマン、時事ネタ・キャラクター、季節限定ヒーロー、復刻版キャラなどを輩出してきた。

 プロレスの“聖地”後楽園ホールでの東京公演は毎年6月と12月に2回開催。サスケ軍団対バラモン兄弟の『宇宙大戦争』@後楽園ホール――いったいいつのどの試合がそのプロローグであったかについても諸説があるが――は、サスケ&野橋真実対シュウ&ケイの“金網エニウェア・バンクハウス・タッグデスマッチ”(2006年=平成18年12月17日)から数えると今大会ですでに9年連続での開催となった。

 大河ドラマのストーリーとしては、前年の『今年もやるでしょう!!宇宙大戦争~MAGIC SASUKE~』(2013年=平成25年12月13日)の試合終了後、サスケの「オレといっしょに宇宙の平和を守ろう!」という申し出によりサスケとバラモン兄弟が緊急合体し、以後はこの3人が新ユニットを結成。サスケ自身は2014年(平成26年)から“超能力者”“予言者”キャラクターにシフトチェンジし、リング上で数かずの超常現象を起こしはじめた。このあたりのストーリーの荒唐無稽さにツッコミを入れてもそれほど意味はないし、そこに疑問を感じてしまうとサスケのプロレス観、サスケの世界観を理解することはできない。

 みちのくプロレスが子ども向けのプロレス――東北のちいさな町のちいさな体育館では子どもやお年寄りが楽しめるプロレスを心がけていることになっているけれど――かというとまったくそうではなくて、後楽園ホールにみちのくプロレスを観にくるオーディエンスは観戦歴の長いオトナのプロレスファンが圧倒的に多い。日本でいちばん目の肥えた観客のまえでとことんバカバカしいプロレスをみせることで、その向こう側に“プロレスの真実”“宇宙の真実”あるいは“プロレスの法則”“宇宙の法則”を浮かび上がらせるという試みがサスケの考えるところの「宇宙大戦争」なのだろう。

 “神々と亀々の戦い”サスケ&シュウ&ケイ&ウルトラマンロビン対かめっしー1号&2号&3号&4号の8人タッグマッチ(時間無制限1本勝負)は、ことしもサスケの“自爆ダイブ”のオンパレードだった。“超能力者”サスケはかつてのような華麗な空中殺法ではなく、“自虐的受け身”によって観客に痛みを伝えるレスラーに変身してしまった。試合終了後には新シーズンの“予告編”としてサスケとバラモン兄弟のあいだに不穏な空気が流れるシーンが予想されていたが、結果的に仲間割れは起きなかった。どうやら、サスケは来年以降も“オカルト路線”を歩みつづけるようだ。

 12・14全日本プロレス『和田京平レフェリー40周年&還暦記念大会』後楽園ホール大会は、みちのくプロレスのそれとはまたちがった意味で、観戦歴の長いオトナのプロレスファンがのんびりとプロレスを満喫できる“プロレス空間”だった。

 和田レフェリーが「ぼくが観たいと思う試合をマッチメークした」という今大会は、シングルマッチ3試合、タッグマッチ3試合(そのうち1試合は6人タッグマッチ)の計7試合をラインナップ。前座の第1試合では全日本プロレスのいちばん新しいルーキー、青柳優馬がデビューした。

 和田レフェリーは1954年(昭和29年)、東京都足立区生まれ。全日本プロレス発足まもないころからリング運搬、会場設営などを手伝っていたが、ある日、ジャイアント馬場さんから「お前、レフェリーをやってみないか」と誘われた。「テキパキとよく働く、動きがいい」(馬場)というのがその理由だったというが、和田レフェリー自身は「自分が馬場さんに気に入られたのは、馬場さんの本名が馬場正平で、ぼくが和田京平だから、なんか似ているということでかわいがってくれたんだと思います。“平”ってあんまりいないでしょ? それで」と謙遜する。

 1974年(昭和49年)11月の『NWAチャンピオン・シリーズ』から正式にレフェリーに転向。レフェリングの師匠は“NWA公認レフェリー”ジョー樋口さんだった。“世界の強豪”“世界の超一流”が全日本プロレスのリングにやって来た70年代から80年代前半までは樋口レフェリーのサブ的なポジションだったが、ジャンボ鶴田と天龍源一郎の“鶴龍時代”を分岐点として、90年代の“四天王時代”(三沢光晴、川田利明、小橋建太、田上明)からメイン・レフェリーに昇格。いまでも語り草となっている鶴田対天龍、鶴田対三沢、三沢対川田、三沢対小橋、三沢対スタン・ハンセン、小橋対スティーブ・ウィリアムス、小橋対ハンセンといった“名勝負”の数かずをほとんどひとりで裁いてきた。

 20歳でデビューし、レフェリー生活40周年で還暦を迎えた和田レフェリーの歩んできた道は王道・全日本プロレスの歴史そのものといっていい。リングアナウンサーのコールとともに“キョーヘー!”の大合唱が起きるほどの人気者なのに「オレたちは“黒子”。裏方は目立っちゃいけない。それが馬場さんの教えだから」といって和田レフェリーは口をへの字にして「うん」とうなずく。だから、試合会場でサインを求められたりしても、色紙にはサインはしない。でも、売店に立っているときに話しかけてくるお客さんたちとはできるだけ気軽におしゃべりをするようにしているし、パンフレットの上やなんでもない紙きれにはサインを走り書きすることもあるいう。

 この日、選手会から還暦の赤いちゃんちゃんこと真新しい純白のリングシューズをプレゼントされた和田レフェリーは、うれしそうな顔でこう語った。

「こんなふうにリングの上で馬場さんの還暦のお祝いをやったのがそんなに昔のこととは思えません。(リングシューズをながめながら)ぼくはあと10年はがんばらないと……」

 全日本プロレスはこの大会で年内の全日程を終了。新日本プロレスも19日、20日の2夜間連続の後楽園ホール大会で年内の日程を終了した。WRESTLE-1は22日、スターダムは23日、ZERO-1はクリスマスイブの24日にそれぞれ後楽園ホールで年度最終興行。年末の28日にはアイスリボン(正午12時)とJWP女子プロレス(午後6時)がそれぞれ昼と夜に、30日には大日本プロレスが後楽園ホール大会をおこなう。

 大みそかには大日本・DDTプロレス・KAENTAI-DOJOの3団体共同プロデュースによる恒例の“年越しプロレス”がおこなわれ、年が明けると、いきなり1月1日からZERO-1が“元旦プロレス”後楽園ホール大会(14時)。1月2日、3日は全日本プロレス(2日=正午)と大日本プロレス(2日=午後6時)、全日本プロレス(3日=正午)とDDT(3日=18時30分)が後楽園ホールでそれぞれ“初プロレス”。そして、“イッテンヨン”こと1月4日には新日本プロレスが後楽園ホールのおとなりの東京ドームでスーパーイベント“WK9”(16時)が開催する。いまの日本のプロレス市場では新日本プロレスだけが“超大作”をプロデュースしつづけている。

斎藤文彦

斎藤文彦

 熱いプロレスが観たい人たちは熱いプロレスを追い求めればいいし、オトナのプロレスが観たい人たちはオトナのプロレスを探せばいい。デスマッチが好きならばデスマッチを観にいけばいいし、女子プロレスだけが好きならば女子プロレスだけを観るのもいい。いまどきの若者にはいまどきの若者向けのプロレスがあって、きっと、いまどきの中年にはいまどきの中年向けのプロレスがある。後楽園ホールのリングの上ではきょうも、あしたも、そのまた次の日も、プロレスの大河ドラマのいちばん新しい1ページがつづられているのである。Seasons Greetings!

文責/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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※このコラムは毎週更新します。次回は、1月初旬に掲載予定!





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