恋愛・結婚

「恋人なんか絶対にできない」と思っている人たちへ

 彼女と海に花火大会に、BBQに……、とまあ、リア充の皆さんにおきましては、このクソ暑い夏も楽しい恋の季節なのでしょう……と心の中で毒づく独り身男性も少なくないはず。

 とはいえ、妬みと嫉みを肥大化させても、いいことは何もない。夏到来、恋の季節に、劇作家・鴻上尚史による週刊SPA!連載「ドン・キホーテのピアス」から、恋愛を後押しするコラムを3本立てでお届けする。

 まずは、連載の単行本化第17弾。先月発売された最新書籍『この世界はあなたが思うよりはるかに広い』収録のこちらから。2014年、恋愛をテーマに書き下ろした舞台『ベター・ハーフ』の公演が終了した4月に掲載された1本だ。

恋愛と野球◆恋愛と野球

 この原稿が活字になる頃には、『ベター・ハーフ』の大阪公演も終わり、東京凱旋公演というのを週末にやる予定になっています。

 久しぶりに書いたがっつりとした恋愛物語だったのですが、ありがたいことに好評で、キャストもスタッフも大変喜んでいます。

 ツイッターやアンケートの反応にも、「今日、『ベター・ハーフ』を見た勢いを借りて、告白した。撃沈した」とか「56歳ですけど、恋がしたいです。いえ、します!」なんていう前向きというか、向こう見ずというかポジティブな反応をいろいろともらいました。

 が、当然、光あれば影もあり、「どうせ恋愛なんか、俺には関係ないし」とか「40歳まで、恋愛とは無縁の生活を送ってきました。これからもそうでしょう。諦めてます」なんていう反応もありました。

 恋愛をしたくない、と思っているとしたら、それは本人の意志ですから大きなお世話なんですが、もし、「恋愛なんかできるわけない」「恋人なんか絶対にできない」「誰も私を愛してくれない」ということなら、ちょっと違うのになあと僕は思っています。

「大リーグの試合に出たい」と40歳の素人が言っていたら、「それは無理でしょう」と断言します。けれど、「どんな場所でもいい。野球がしたい」という希望なら、全然、可能だと思うのです。

「大リーグ」と「草野球」の違いは、「大観衆」「高額な報酬」「テレビ放送」「野球技術」とたくさんあるでしょうが、逆に考えれば「野球をすること」という楽しみでは共通する部分が大きいと思います。

「球を打つ」「投げる」「走る」「守る」「バントする」……それらは、「野球そのもの」がもつ楽しみです。

「大リーグ」だけが野球で、原っぱでやる「草野球」は野球じゃない、という人はいないと思います。野球にはいろんな野球があって、それぞれのレベルで楽しめばいいとみんな思っているはずです。

 が、恋愛は残念ながら、こんな自由な考え方はされていません。「友達に見せて恥ずかしくない相手」「友達がうらやむぐらいの相手」「かわいい子」「それなりの社会的地位」なんて、いろいろと「周りの視線」や「自分なりの水準」をもつ人が多いのです。路地裏でやる草野球を恥じる人はいないのに、ブスやブサイクや社会的弱者との恋愛を恥じる人は多いのです。

 そもそも、恋愛の楽しみとはなんでしょう。それは例えば、「今日あった楽しいことを話して、また楽しい気持ちになる」とか「今日あった哀しいことを話して、少しは気持ちが楽になる」とか「休日にどこかに一緒に出かける相手がいる」とか「二人で美味しい食事をする」とか「人肌に触れる」とか「セックスをする」とか「夜中、不安に目が覚めて、相手の胸に顔を埋める」とか「面白い経験をした時にすぐに話したくなる」とか「美しい景色を見た時、もう一度相手とこの景色を見たくなる」とか、いろいろでしょう。

 これは、相手が誰でも感じることのできる「恋愛の素晴らしさ」です。大リーグだろうが草野球だろうが、共通している「野球の楽しさ」と同じです。

「恋愛なんかできない」と自分を卑下している人は、「自分は大リーグには出場できない」と悲観しているのです。脳内で「それなりにかわいい子」「イケメン」など「高水準の相手」を想定しているのです。逆に言えば「自分は野球をするなら、大リーグ、譲ってもプロ野球レベル」と思い込んでいるのです。自分は草野球しかやったことがないのに、です。

 そういう人は、草野球にやっと出られるぐらいの相手を想定して、「誰も私を愛してくれない」とは言ってないのです。けれど、草野球レベルを想定することが、哀しくミジメなことでしょうか。

 路地裏で草野球をやった人なら、分かります。それは決してミジメではなく、それどころか、「野球の楽しさ」に溢れていたと。

 恋愛も同じです。草野球レベルの自分と同じレベルの人と始める恋愛にも、たっぷりと「恋愛の素晴らしさ」はあるのです。

 観客席に長くいると、大リーグを好み、草野球をバカにします。が、実際にやってみると草野球の素晴らしさに驚くのです。まずは草野球の相手を見つけることなのです。

この世界はあなたが思うよりはるかに広い

特定秘密保護法案や生活保護などの社会問題からカルチャー、そして、恋愛についてまで! 鴻上尚史がまなざした、2013年4月から2年間のこの国の変化の記録をまとめた1冊

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3.11以降の世界で不安を抱えながらも、それでも楽しく生きる術を鴻上尚史が提言する




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