「アナベル、外に出てふたりで話そう!」――46歳のバツイチおじさんはライバルに先を越され窮地に立たされた〈第13話〉
突然、嫁さんにフラれて独身になったTVディレクター。御年、46歳。英語もロクにしゃべれない彼が選んだ道は、新たな花嫁を探す世界一周旅行だった――。当サイトにて、2015年から約4年にわたり人気連載として大いに注目を集めた「英語力ゼロのバツいちおじさんが挑む世界一周花嫁探しの旅」がこの度、単行本化される。本連載では描き切れなかった結末まで、余すことなく一冊にまとめたという。その偉業を祝し、連載第1回目からの全文再配信を決定。第1回からプレイバックする!
* * *
英語も喋れないのにたった一人で世界一周の旅に出ることになった「46歳のバツイチおじさん」によるズンドコ旅行記、今回はセブ島スパルタ式英語合宿篇のついに最終回です。前回、棚ボタ式に愛しのアナベルとクリスマス旅行にいけることになったバツイチおじさん。果たして、ムーディーな夜に愛の告白をすることができたのでしょうか!? 今回、花嫁候補ナンバー1のマドンナ、アナベルとの物語に、ついにピリオドが打たれます!
【第13話 真夏のクリスマスイヴ】
まもなくクリスマスイヴを迎えようとしている。
セブ島は1年を通して暑い。クリスマスでも真夏なのだ。
そして、2か月にわたったスパルタ式英語合宿も、まもなく終わる。
俺は卒業旅行と題して、アナベルとカモテス島のビーチリゾートで「真夏のクリスマスイヴ」を過ごすこととなった。若い韓国人グループに日本人のおじさんが一人混じった2泊3日のバカンス旅行だ。
12月24日、早朝4時30分。
前日にライアンが買い込んだ30本は超えるビールとダンボール二箱分のチャミスル40本くらい。そして、ダンボール一箱分の韓国の辛いカップラーメンを車に積み込み出発した。俺は旅のメンバー、エマにレベル3になった英語で話しかける。
俺「オー!ツー メニー アルコホール(すごい量の酒だね!)」
エマ「ライアン イズ クレージー!(ライアンはクレージーよ!)」
最近の日本人の若者はほとんどお酒を飲まないが、韓国人の若い男女はこの量の酒になんの抵抗もないようだった。酒飲みの俺とは相性が良い。ちなみにライアンは前日飲みすぎて遅刻。後から合流となった。男3人女5人でカモテス島行きの港に向かった。
港に到着すると、クリスマスイブをビーチで過ごしたい人が多いのか、もの凄く混んでいた。そして、俺らが予定していた8時発の船にはどうやら乗れないとの情報が飛び込んできた。
こんなに楽しみにしていたクリスマス旅行なのに、まさかの、いきなりの足止めである。
すると、偶然そこでロイを見かけた。
ちなみにロイとは、前回ボホール島に行ったときアナベルやジェーンと一緒にいた、グイグイチームのリーダーであるあの台湾人だ。アナベルやジェーンが「船に乗れなくて困ってるの」とロイに言うと、即座に動いてダフ屋と交渉してチケットをゲットしてくれた。
やるな、ロイ……。
どうやらロイはアナベルかジェーンのどちらかを狙ってるようだ。
なんとか船に乗り込むと、カカオトークのグループに俺を招待してくれた。
こうして俺はアナベルのカカオトークIDをゲットすることができた。なんとなく、アナベルとの距離が徐々に近づいているような気がする。よし、今日がラストチャンスだ。この2泊3日の間に、俺の思いを伝えなければ……。
セブ島から離れて3時間。
リゾート地化されていない牧歌的なカモテス島が見えてきた。
船を降りると、ジプニーと呼ばれる、トラックの荷台に席を作った乗り合いバスがたくさんいた。一番年上であるエマが1日貸切り1500ペソ(3710円)で交渉し、ジプニーを借りた。韓国人のこのグループでは、一番年上のエマがまとめ役になっているようだった。
ジプニーに乗り込むと、全員でビールを開け「乾杯!」。
みんな滅茶苦茶ノリがいい。「私、飲めないんです~」なんていう子は一人もいない。おしとやかそうなアナベルもビールを瓶でラッパ飲みしている。
会話の95%は韓国語。
英語じゃないと俺が孤立するので、会話のタイミングを読んで俺は冗談ぽくこう叫んだ。
「スピーク イングリッシュ! ビコーズ ウィーアー イングリッシュ スクール スチューデント(英語で話そうぜ。なぜなら俺たちは英語学校の生徒なんだから)」
すると、笑いが起きしばらくは英語の会話が続く。
が、すぐにまた韓国語に戻ってしまう。
まぁ、いい。旅の一体感は徐々に心地よくなっていく。
一日観光のジプニーが、なぜかホテルに到着した。エマに「あれ?一日観光じゃないの?」と聞くと「そう思ったんだけど、朝早かったし、みんな疲れてるから運転手と交渉して、同じ金額で明日観光してもらうことにした」と答えた。すげー適切な判断。行動力も交渉力もある。エマは元サムソンの社員だったとのこと。さすがである。
ホテルでは、男部屋でライアンを含めた4人が雑魚寝。お年寄りということで一番良いベッドを譲ってくれた。優しい。隣は女子5人が雑魚寝。
遅めのランチをとると、そこでもみんなビールを頼む。みんなで乾杯。本当に気が合う。アナベルとも目を合わせて乾杯。
その後、全員で水着になり、ビーチで集合することに。
やった! アナベルのビキニ姿が見れる!
瞬間的にテンションが上がるも、アナベルは日に焼けないためラッシュガードを上に着ている。ちょっぴり残念。
どうやら若い韓国人女性の間でラッシュガードが流行ってるようだ。
みんな全身で喜びを表現しながら海に飛び込んだ。
俺はその光景を見ながらあることに気づいた。
韓国人は喜怒哀楽の感情表現が本当に豊かだ。
人に気遣うわけでもなく、楽しい時は思いっきり笑うし、海に突き飛ばされたりしたら、思いっきり怒る。
昔、岡本太郎の本に「日本人の顔は死んでいる」と書かれていたが、確かにそうだと思った。韓国人はわかりやすい。本音で語りかけてくる。
フィリピンの先生たちが「日本の映画やドラマは暗いし、複雑でわかりにくいからあんまり見ない。でも韓国ドラマや映画は好き」と言っていたのを思い出した。娯楽においても、シンプルでわかりやすい感情表現が重要だと思った。
ということで、46歳のバツイチおじさんも自らの感情表現を炸裂させるべく、15メートルの崖から海へ飛び込んでみた。
一同大盛り上がりでまた一つ壁がなくなった。
⇒【動画】http://youtu.be/tKMnLHryObk
日が沈み、辺りが暗くなってきた。 いよいよ、真夏のクリスマスイブ。初めての経験だ。 どんなディナーなのか? どんなパーティーをするのか? 実は全く知らされてなかった。 ライアンがやっと到着したので、聞いてみた。 俺「クリスマスイブの夕食どうするの?」 ライアン「この部屋でパーティーだよ!」 俺はテンションがあがった。 「念願のアナベルとのクリスマスイブだ!」 7時になると、女子たちがお湯を持って部屋に入ってきた。 そして、大量の辛いカップラーメンにお湯を入れ始めた。 俺「もしかして、今日の晩御飯ってカップラーメン?」 アナベル「そうよ。今日は飲むよ~ゴッツー」 アナベルに「ゴッツー」と呼ばれ、ドキッとした。 カップラーメンのクリスマスイブで喜んでいるアナベルを、さらに愛おしく思った。 いや、むしろ・・・。 イヴに辛いカップラーメンというこのシチュエーション、 逆にロマンチックだよ。 俺は、高田馬場にある演歌のかかるガード下のおでん屋に、元妻とクリスマスイブに行ったことを思い出した。 元妻「なんで山本譲二? みちのく一人旅? 笑っちゃう」 俺 「うん。俺たちキリスト教徒じゃないし」 元妻「……でも私、こんなクリスマスイブも好きよ」 カップラーメンができると、大量のチャミスルとビールが開けられ、クリスマスパーティーが始まった。 外はいつしか大雨になっていた。 しかし逆にそれが、部屋の密室度を高め、異様な盛り上がりを見せた。 とりあえず韓国人はチャミスルを飲む飲む。 酒の強い俺も、彼らの飲むペースの速さにびっくりした。 絶対に買いすぎだろうと思っていた箱いっぱいのチャミスルが次から次へと無くなっていく。 チャミスル一気が飲めないと「お前男じゃない!」と怒られる。女も怒られる。昔の体育会系ノリだ。 アナベルを見ると、負けじとチャミスルを飲んでいた。 白い肌がピンク色になってさらに可愛くなっていた。 すると、酔っ払ったアナベルが俺にこんなことを言ってきた。 アナベル「アイ トークド ジェーン アバウト ゴッツー ユー ルックライク キャット ツー プレイ ア シュレック(ずっと前からジェーンと盛り上がってたんだけど、ゴッツーってシュレックに出てくる長靴を履いた猫にそっくりだよね)」 すると、女子たちが「似てる似てるー!」と大騒ぎで盛り上がった。 ん? ちょっと待てよ。 ……てことは、アナベルはずっと前から俺の噂をしてたってことなんだ。 俺のテンションは急速にあがり始めた。 「なんかいい感じだぞ!」 全体の空気を壊さず、アナベルと二人きりで話せるチャンスが来ればいいな、と思った。俺は酒を飲みながら、そのタイミングを待つことにした。 その後、3時間ぐらいみんなで酒を飲んだ。さすがにみんな酔っ払ってきた。声のトーンも倍になっていた。アナベルの目も少し座ってきて、よく喋りよく笑っている。かなり酔っているようだ。おしとやかなイメージがあるが、割と活発な娘なのかもしれない。女子同士ベッドに座って歌を唄ったり、じゃれたりし始めた。 アナベルと喋りたいが、そんなことしたら男たちにヒンシュクを買うし、せっかく誘ってくれたライアンの面子を潰したくない。 俺は男同士で酒を酌み交わし、親交を深めていた。 すると突然ドアが開いた。 ロイと台湾人グループが料理をおみやげに部屋に入ってきたのだ。 すでに酔っ払っていた俺たちは突然の来客に盛り上がった。 ロイは英語でひたすらおしゃべりを始め、韓国人の男たちを酒で潰し始めた。気の良い男子たちは「受けて立つぞ!」とうスタンスで酒を飲んだ。 ロイはひとしきり男子たちと酒を酌み交わしたあと、おもむろに酔っ払ったアナベルの隣に座った。 そしてひたすらアナベルを口説きだした。 男たちの間で「なんだこいつ」という空気が流れる。 しかし、ロイはそんなのお構いなしだ。 周りのヒンシュクなんて関係なくとにかく口説きまくる。 そして、「アナベル、外に出てふたりで話そう!」というロイの声が聞こえた。 えっ……。 いや、大丈夫だ。 そんな安い口説き文句にアナベルが乗るわけない。 俺は安心して、ライアンと酒を飲んでいた。ところが…… ええっ……。 ふと見ると、ロイとアナベルはおもむろに席を立ち、外に消えていった。 えええええっ……!!! 俺は頭を整理整頓しようとしたが、酔っ払っているためさらに混乱した。 トイレかもしれない。そう思うことにしたが、10分たっても全然帰ってこない。 次の瞬間、酒を飲み続け、盛り上がるみんなの声が一切聞こえなくなった。 盛り上がり続けるみんなの姿が、サイレント映画のスローモーション映像のように見えた。 そして20分後――。 ロイとアナベルは部屋に帰ってきた。 俺は動物的な感覚を研ぎ澄ませながらアナベルの顔を見た。 あれ……? なんか二人とも、ちょっとだけすっきりしている……? なんか…… すっきりした感じが、表情からこぼれ落ちておる! いやいやいや。 そんなことあるわけがない。 おそらく、酔い覚ましに散歩でもしてたのだろう。 もしくは、普通にトイレでも行ってすっきりしたのだろう。 だが、ロイとふたりで消えた事実は、 俺の心の奥深くにぐさりと突き刺さった。 その後、部屋に戻ってきたふたりは、ずっといい感じだった。 俺は外に出て海風にあたった。 そして、アナベルのすっきりした顔を何度も思い出した。 すると、KUWATA BANDの超名曲 『MERRY X’ MAS IN SUMMER』の一節が頭に流れてきた。 Let it be. この夏は もうこれきりね 夢見るよな 甘いBrown-eyes お別れで濡れてた 俺はフラれた。 告白する前にフラれた。 若い男女の恋をおじさんが邪魔しちゃいけないよね。 本能的にそう感じた。 こうして俺の真夏のクリスマスイブは終わった。 翌日、ロイたちの台湾人グループは先に帰り、俺たちのグループだけになった。実はカモテス島は流れ星がめちゃくちゃ綺麗らしい。もしかしてもしかしてだけど、そこで2ショットになるチャンスが来るかもしれない。 俺はあきらめの悪い奇人、後藤隆一郎だ。 流れ星の下で語り合えば、ロイとの20分など一気に飛び越えちゃうんじゃないかと思った。よし、今度こそラストチャンス! 俺は奇跡を起こすんだ! 「流れ星を見て神様にこの恋がうまくいくようにお願いしよう」 ところが、その日は38年に一度のフルムーンクリスマスだった。 月の光が眩しすぎて、流れ星が全然見えない。 哀しいぐらいに、何にも見えない。 みんなで「流れ星が見えるかもしれない」と1時くらいまで粘ったが、アナベルはさすがに眠くなったらしく、部屋に戻って寝てしまった。 俺はライアン、テリー トニーの韓国人男子グループと「気合いで流れ星を見るぞ!」と待った。 「神様を味方につけるんだ。奇跡を信じよう!」 しかし、フルムーンは日の出まで輝き続け、結局は一筋の流れ星も見れないまま、俺たちは砂浜で眠ってしまった。 神様は恋の願いを叶えてくれなかった。 しかし、朝起きたら神様は「年の離れた韓国人の新たな親友」を与えてくれたんだと気づいた。 「Give Thanks to God(神様ありがとね)」 フォローのために一応書いておくけど、ロイも普段はめちゃくちゃいいヤツで、今でも友達です。男女関係がからむと面倒くさいね。ロイ、悪く書いてごめんな。 その日の夜、学校に戻り、旅立つためのパッキングをした。 2か月間お世話になったこの学校ともついにお別れである。 荷物をこれ以上増やせないので毎日使ったボロボロの教科書はドミトリーに置いてきた。お世話になった友達に、ふりかけやチョコレート、インスタントコーヒーなどをあげた。 翌朝、目が覚めると俺は22㎏のバッグパックを背負った。 学校の校門に行くと、日本人、韓国人、台湾人の友達が見送りに来てくれた。 朝早かったのでアナベルはいなかったが、ライアンやテリーは来てくれた。 そして全員がお別れに韓国語版「蛍の光」を歌ってくれた。
別れを惜しみ、俺は2か月間お世話になった学校を去った。 同じ釜の飯を食った仲間が愛おしかった。 もう一度あの学食を食べたかった。 友達や先生や学校のスタッフ、カフェラのおばちゃんと離れるのが寂しかった。 「いろいろな経験をありがとうございました。またいつか必ず会いに来ます!」 カカオトークのグループトークは空港に着くまでずーとお別れのコメントが鳴りっぱなしだった。 マニラ空港のトランジット(乗り換え)が6時間あったので、一人でこの連載を書いていた。 すると、目の前に綺麗な白人女性が一心不乱にパソコンを叩いている。どうやらこの女性も乗り換えで飛行機を待っているようだ。俺は覚えたての英語を白人女性相手に使いたくなった。勇気を出して話しかけてみることにした。 俺 「エクスキューズ ミー フエアー フロム?」 白人美女「アイム フロム フレンチ バット ナウ アイ リブイン トウキョウ」 俺 「……えっ、日本語しゃべれるんですか?」 白人美女「……はい。日本人ですか?」 俺 「はい、日本人です。日本のどこに住んでるんです?」 白人美女「高田馬場に住んでる変なフランス人です」 俺 「えーー、渋いな~。俺も高田馬場に20年近く住んでましたよ」 話は日本語で盛り上がった。 彼女の名前はシモン・エリカさん。自称オタクのコンピュータープログラマー。 現在はコンサルティング会社に勤めているらしい。そしてフランス美女とは思えぬ予想外な言葉が出てきた。 シモン「私、ユーチューバーになりたいんです」 俺 「……ユーチューバーって。ヒカキンとかみたいに?」 シモン「はい、ヒカキン研究してます。好きなことしながらお金を稼ぎたい」 おーー、ヒカキン研究か。これは本物のオタクだ。しかも美女。 「面白い!」と思ったが、出会いは短かった。 シモン「私の飛行機がもうくるね。また日本で会いましょう!」 シモンとFacebookを交換しバイバイをした。 学校を出て空港まで移動しただけでこんな出会いもある。 アナベルのことや友達との別れで少々センチメンタルになってた俺だが、 彼女のおかげで随分気がまぎれた。 そして、次の国、タイでの出会いが俄然楽しみになった。 夜の22時。マニラ発の深夜飛行機でバンコクのスワンナプーム空港に到着した。 問題もなく入国審査を終えると、お金をおろすためATMを探した。 2か月前の空港で新生銀行カード飲み込まれ事件があったため、慎重になったが、ここのATMは日本語対応があったためすんなりとお金を下ろせた。とりあえずは約1万6500円分である 5000バーツを入手。 そのお金を持ってスマートフォンのSIMカードを買いに行った。フィリピンは回線が遅かったので4Gのネット回線を予約していると、見たことのある女性が目の前を通り過ぎた。 俺「Aちゃん!」 A「え? ごっつ? なぜここにいるの?」 それは、元カノとの偶然すぎる再会だった。 元妻と付き合う前に同棲して別れたAちゃんとこんなところで 再会するなんて……。 2か月かけて覚えた英単語がすべて吹き飛んでしまいそうになるほどの 衝撃を受けた俺は、しばらくその場に立ち尽くしていた――。 次号予告「元カノとの再会がとんでもないことに!? 奇跡の奇人、バンコクでたそがれる」を乞うご期待! 1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
日が沈み、辺りが暗くなってきた。 いよいよ、真夏のクリスマスイブ。初めての経験だ。 どんなディナーなのか? どんなパーティーをするのか? 実は全く知らされてなかった。 ライアンがやっと到着したので、聞いてみた。 俺「クリスマスイブの夕食どうするの?」 ライアン「この部屋でパーティーだよ!」 俺はテンションがあがった。 「念願のアナベルとのクリスマスイブだ!」 7時になると、女子たちがお湯を持って部屋に入ってきた。 そして、大量の辛いカップラーメンにお湯を入れ始めた。 俺「もしかして、今日の晩御飯ってカップラーメン?」 アナベル「そうよ。今日は飲むよ~ゴッツー」 アナベルに「ゴッツー」と呼ばれ、ドキッとした。 カップラーメンのクリスマスイブで喜んでいるアナベルを、さらに愛おしく思った。 いや、むしろ・・・。 イヴに辛いカップラーメンというこのシチュエーション、 逆にロマンチックだよ。 俺は、高田馬場にある演歌のかかるガード下のおでん屋に、元妻とクリスマスイブに行ったことを思い出した。 元妻「なんで山本譲二? みちのく一人旅? 笑っちゃう」 俺 「うん。俺たちキリスト教徒じゃないし」 元妻「……でも私、こんなクリスマスイブも好きよ」 カップラーメンができると、大量のチャミスルとビールが開けられ、クリスマスパーティーが始まった。 外はいつしか大雨になっていた。 しかし逆にそれが、部屋の密室度を高め、異様な盛り上がりを見せた。 とりあえず韓国人はチャミスルを飲む飲む。 酒の強い俺も、彼らの飲むペースの速さにびっくりした。 絶対に買いすぎだろうと思っていた箱いっぱいのチャミスルが次から次へと無くなっていく。 チャミスル一気が飲めないと「お前男じゃない!」と怒られる。女も怒られる。昔の体育会系ノリだ。 アナベルを見ると、負けじとチャミスルを飲んでいた。 白い肌がピンク色になってさらに可愛くなっていた。 すると、酔っ払ったアナベルが俺にこんなことを言ってきた。 アナベル「アイ トークド ジェーン アバウト ゴッツー ユー ルックライク キャット ツー プレイ ア シュレック(ずっと前からジェーンと盛り上がってたんだけど、ゴッツーってシュレックに出てくる長靴を履いた猫にそっくりだよね)」 すると、女子たちが「似てる似てるー!」と大騒ぎで盛り上がった。 ん? ちょっと待てよ。 ……てことは、アナベルはずっと前から俺の噂をしてたってことなんだ。 俺のテンションは急速にあがり始めた。 「なんかいい感じだぞ!」 全体の空気を壊さず、アナベルと二人きりで話せるチャンスが来ればいいな、と思った。俺は酒を飲みながら、そのタイミングを待つことにした。 その後、3時間ぐらいみんなで酒を飲んだ。さすがにみんな酔っ払ってきた。声のトーンも倍になっていた。アナベルの目も少し座ってきて、よく喋りよく笑っている。かなり酔っているようだ。おしとやかなイメージがあるが、割と活発な娘なのかもしれない。女子同士ベッドに座って歌を唄ったり、じゃれたりし始めた。 アナベルと喋りたいが、そんなことしたら男たちにヒンシュクを買うし、せっかく誘ってくれたライアンの面子を潰したくない。 俺は男同士で酒を酌み交わし、親交を深めていた。 すると突然ドアが開いた。 ロイと台湾人グループが料理をおみやげに部屋に入ってきたのだ。 すでに酔っ払っていた俺たちは突然の来客に盛り上がった。 ロイは英語でひたすらおしゃべりを始め、韓国人の男たちを酒で潰し始めた。気の良い男子たちは「受けて立つぞ!」とうスタンスで酒を飲んだ。 ロイはひとしきり男子たちと酒を酌み交わしたあと、おもむろに酔っ払ったアナベルの隣に座った。 そしてひたすらアナベルを口説きだした。 男たちの間で「なんだこいつ」という空気が流れる。 しかし、ロイはそんなのお構いなしだ。 周りのヒンシュクなんて関係なくとにかく口説きまくる。 そして、「アナベル、外に出てふたりで話そう!」というロイの声が聞こえた。 えっ……。 いや、大丈夫だ。 そんな安い口説き文句にアナベルが乗るわけない。 俺は安心して、ライアンと酒を飲んでいた。ところが…… ええっ……。 ふと見ると、ロイとアナベルはおもむろに席を立ち、外に消えていった。 えええええっ……!!! 俺は頭を整理整頓しようとしたが、酔っ払っているためさらに混乱した。 トイレかもしれない。そう思うことにしたが、10分たっても全然帰ってこない。 次の瞬間、酒を飲み続け、盛り上がるみんなの声が一切聞こえなくなった。 盛り上がり続けるみんなの姿が、サイレント映画のスローモーション映像のように見えた。 そして20分後――。 ロイとアナベルは部屋に帰ってきた。 俺は動物的な感覚を研ぎ澄ませながらアナベルの顔を見た。 あれ……? なんか二人とも、ちょっとだけすっきりしている……? なんか…… すっきりした感じが、表情からこぼれ落ちておる! いやいやいや。 そんなことあるわけがない。 おそらく、酔い覚ましに散歩でもしてたのだろう。 もしくは、普通にトイレでも行ってすっきりしたのだろう。 だが、ロイとふたりで消えた事実は、 俺の心の奥深くにぐさりと突き刺さった。 その後、部屋に戻ってきたふたりは、ずっといい感じだった。 俺は外に出て海風にあたった。 そして、アナベルのすっきりした顔を何度も思い出した。 すると、KUWATA BANDの超名曲 『MERRY X’ MAS IN SUMMER』の一節が頭に流れてきた。 Let it be. この夏は もうこれきりね 夢見るよな 甘いBrown-eyes お別れで濡れてた 俺はフラれた。 告白する前にフラれた。 若い男女の恋をおじさんが邪魔しちゃいけないよね。 本能的にそう感じた。 こうして俺の真夏のクリスマスイブは終わった。 翌日、ロイたちの台湾人グループは先に帰り、俺たちのグループだけになった。実はカモテス島は流れ星がめちゃくちゃ綺麗らしい。もしかしてもしかしてだけど、そこで2ショットになるチャンスが来るかもしれない。 俺はあきらめの悪い奇人、後藤隆一郎だ。 流れ星の下で語り合えば、ロイとの20分など一気に飛び越えちゃうんじゃないかと思った。よし、今度こそラストチャンス! 俺は奇跡を起こすんだ! 「流れ星を見て神様にこの恋がうまくいくようにお願いしよう」 ところが、その日は38年に一度のフルムーンクリスマスだった。 月の光が眩しすぎて、流れ星が全然見えない。 哀しいぐらいに、何にも見えない。 みんなで「流れ星が見えるかもしれない」と1時くらいまで粘ったが、アナベルはさすがに眠くなったらしく、部屋に戻って寝てしまった。 俺はライアン、テリー トニーの韓国人男子グループと「気合いで流れ星を見るぞ!」と待った。 「神様を味方につけるんだ。奇跡を信じよう!」 しかし、フルムーンは日の出まで輝き続け、結局は一筋の流れ星も見れないまま、俺たちは砂浜で眠ってしまった。 神様は恋の願いを叶えてくれなかった。 しかし、朝起きたら神様は「年の離れた韓国人の新たな親友」を与えてくれたんだと気づいた。 「Give Thanks to God(神様ありがとね)」 フォローのために一応書いておくけど、ロイも普段はめちゃくちゃいいヤツで、今でも友達です。男女関係がからむと面倒くさいね。ロイ、悪く書いてごめんな。 その日の夜、学校に戻り、旅立つためのパッキングをした。 2か月間お世話になったこの学校ともついにお別れである。 荷物をこれ以上増やせないので毎日使ったボロボロの教科書はドミトリーに置いてきた。お世話になった友達に、ふりかけやチョコレート、インスタントコーヒーなどをあげた。 翌朝、目が覚めると俺は22㎏のバッグパックを背負った。 学校の校門に行くと、日本人、韓国人、台湾人の友達が見送りに来てくれた。 朝早かったのでアナベルはいなかったが、ライアンやテリーは来てくれた。 そして全員がお別れに韓国語版「蛍の光」を歌ってくれた。
別れを惜しみ、俺は2か月間お世話になった学校を去った。 同じ釜の飯を食った仲間が愛おしかった。 もう一度あの学食を食べたかった。 友達や先生や学校のスタッフ、カフェラのおばちゃんと離れるのが寂しかった。 「いろいろな経験をありがとうございました。またいつか必ず会いに来ます!」 カカオトークのグループトークは空港に着くまでずーとお別れのコメントが鳴りっぱなしだった。 マニラ空港のトランジット(乗り換え)が6時間あったので、一人でこの連載を書いていた。 すると、目の前に綺麗な白人女性が一心不乱にパソコンを叩いている。どうやらこの女性も乗り換えで飛行機を待っているようだ。俺は覚えたての英語を白人女性相手に使いたくなった。勇気を出して話しかけてみることにした。 俺 「エクスキューズ ミー フエアー フロム?」 白人美女「アイム フロム フレンチ バット ナウ アイ リブイン トウキョウ」 俺 「……えっ、日本語しゃべれるんですか?」 白人美女「……はい。日本人ですか?」 俺 「はい、日本人です。日本のどこに住んでるんです?」 白人美女「高田馬場に住んでる変なフランス人です」 俺 「えーー、渋いな~。俺も高田馬場に20年近く住んでましたよ」 話は日本語で盛り上がった。 彼女の名前はシモン・エリカさん。自称オタクのコンピュータープログラマー。 現在はコンサルティング会社に勤めているらしい。そしてフランス美女とは思えぬ予想外な言葉が出てきた。 シモン「私、ユーチューバーになりたいんです」 俺 「……ユーチューバーって。ヒカキンとかみたいに?」 シモン「はい、ヒカキン研究してます。好きなことしながらお金を稼ぎたい」 おーー、ヒカキン研究か。これは本物のオタクだ。しかも美女。 「面白い!」と思ったが、出会いは短かった。 シモン「私の飛行機がもうくるね。また日本で会いましょう!」 シモンとFacebookを交換しバイバイをした。 学校を出て空港まで移動しただけでこんな出会いもある。 アナベルのことや友達との別れで少々センチメンタルになってた俺だが、 彼女のおかげで随分気がまぎれた。 そして、次の国、タイでの出会いが俄然楽しみになった。 夜の22時。マニラ発の深夜飛行機でバンコクのスワンナプーム空港に到着した。 問題もなく入国審査を終えると、お金をおろすためATMを探した。 2か月前の空港で新生銀行カード飲み込まれ事件があったため、慎重になったが、ここのATMは日本語対応があったためすんなりとお金を下ろせた。とりあえずは約1万6500円分である 5000バーツを入手。 そのお金を持ってスマートフォンのSIMカードを買いに行った。フィリピンは回線が遅かったので4Gのネット回線を予約していると、見たことのある女性が目の前を通り過ぎた。 俺「Aちゃん!」 A「え? ごっつ? なぜここにいるの?」 それは、元カノとの偶然すぎる再会だった。 元妻と付き合う前に同棲して別れたAちゃんとこんなところで 再会するなんて……。 2か月かけて覚えた英単語がすべて吹き飛んでしまいそうになるほどの 衝撃を受けた俺は、しばらくその場に立ち尽くしていた――。 次号予告「元カノとの再会がとんでもないことに!? 奇跡の奇人、バンコクでたそがれる」を乞うご期待! 1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
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