テリーが教えてくれた“バット・ダート”の奥義――フミ斎藤のプロレス読本#078【テリー・ファンク編エピソード3】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
「ニュー・ゲーム、新しいゲームだ。ビッグビジネスになるよ」
テリー・ファンクは、わざと真剣な顔をつくってそう話しはじめた。
「バット・ガートbutt dart、っていうんだ。説明するとやや長くなるけれど、それだけの価値はあるはずだ」
テリーは自信ありげだった。
「参加者はひとり500円ずつショバ代を払ってくれ。ゲームはそれからだ」
テーブルの上に10個ばかりの500円玉が無造作に並べられた。テリーは、またしても友だちをたくさん集めて飲み会をおっぱじめていた。横町のラーメン屋さんを貸し切り状態にするのに必要な人員はだいたい10人ちょっとだった。
バット・ダート(お尻でやるダーツ)のルールはこうだ。まず、ビールの大ジョッキを床に置く。もちろん、ちいさなコップでもいい。的が大きければわりとかんたんだし、ちいさければ難度はより高くなる。それだけのことだ。競技者のレベルによってターゲットの大きさを変えてもかまわない。
「ウィナー・テイクス・オール」
ショバ代は、勝った人のものになる。ウィナーはひとりだけ。床に置いた空(から)のジョッキのなかにみごとにコインを落とした人の勝ち。成功者がふたり以上いた場合はバット・ダート・シュートアウト(決勝戦)。
使用する硬貨は10円玉かウォーター(25セント)がベスト。手を使わず、お尻を使ってコインを投げなければならない。
テリーは10年玉を手にとってすっくと立ちあがると、こうすんだ、といでもいいたげに赤茶色のコインをぎゅうっとお尻のまんなかへんにはさみ込んだ。それから、お金が落ちないように腰から下をぐっとタイトにして、回れ右をすると、後ろ歩きでゆっくりと床に置いたジョッキに向かって歩をすすめていった。
ウン、とふんばってから力を抜くと、10年玉はテリーのお尻から離れ、約50センチ下のガラスのジョッキのへりをかすってから、チャリンと音を立ててフロアに転がった。
お尻にはさんだものを床に落とす動作なんて、どうやったって上品にはできない。テリーは10年玉を拾うと、すました顔で「どう?」というしぐさをした。
アメリカンもメキシカンもジャパニーズも、立派なオトナがみんなでお尻に10年玉をはさんでニワトリが卵を産むときのような格好をしてラーメン屋さんの店内を後ろ向きに歩いた。
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