“元ひきこもり”による“ひきこもり”のためのメディア 「ひきこもり新聞」のあくなき挑戦
内閣府が2016年に調査した結果によれば、現在、全国で「ひきこもり」と呼ばれる存在が約54万人いるという。ただ、これは15~39歳を対象にした結果で、もっと上の年代を合わせればさらに膨大な数になると言われている。厚生労働省は2018年からひきこもりなど無業状態の人に対する支援対象を、これまでの39歳上限から44歳にまで拡大する方針だ。
しかし、単純に就労支援をしたところで、すぐにひきこもり状態の人が外の世界と接点を持てるようになるかと言えば、難しい。年代や性別、そしてひきこもりになった理由も千差万別なだけに、各々にとって本当に必要な支援方法を知るのは生半可なことではない。ただ、そのためのヒントになりそうなメディアがある。
「ひきこもり新聞」
そんな彼がひきこもり新聞を立ち上げるのには、あるきっかけがあったという。
「2016年の3月に、ひきこもりの若者を無理やり部屋から叩き出す暴力的支援団体が話題になったのを覚えていますか?『ひきだし屋』と呼ばれる人たちで、叩き出したひきこもりの人を寮に入れて、矯正する団体です。それが大手メディアで好意的に扱われていて、おかしいと思ったんです。斎藤環先生も記者会見を開いて反対声明を出していましたが、それだけだと一度きりで終わってしまう。風化させちゃいけないと思って、新聞を作ろうと思いついたんです」
同時期に、ひきこもり当事者が集まる会に出席するようになっていた彼は、その場でメディアを作る有志を集めることにした。賛同したのは十数人。翌週にはすぐ1回目の編集会議を開いて、2か月後の発刊を目指して動き出した。
「メンバーはみんなひきこもりの当事者。といっても、完全なるひきこもり状態は脱して回復期になっている人たちです。けど、一人の業界紙で働いていた人を除けばみんな未経験で、どうやったら新聞が作れるのか、完全なる手さぐりでしたよ。幸いなことに『不登校新聞』という参考にできる存在があった。だからそれを参考にしつつ、デザインとかは全部自前でやったりして、走りながら考えていった感じですね。『とにかくすぐに形にしないと』って思いが成功したんだと思います。予算? まったくありませんでした。僕が全部出せばいいと思っていたので」
紙版に先だってウェブ版を公開し、2016年11月1日にはついに創刊号が出来上がった。ウェブ販売と会場配布などを通じて、最初に刷った2000部はすぐに足りなくなり、追加で2000部を印刷したという。紙面に目を移すと、その中身は当事者たちのリアルな声で溢れている。
「特集インタビューなどもありますが、基本的には体験談を載せるスタイルをとっています。やはり伝えたいのは当事者の生の声であり、当事者の側に立った時に本当に必要な情報なので」
2016年11月に創刊されたこの新聞は、隔月で発行される紙版とウェブ版で構成されている。それぞれを作っているのは、みんなひきこもりの(元)当事者たちだ。
「やはり当事者じゃないとわからない微妙な心理だったり、本当に必要な情報だったりがある。僕らだからわかる細かい部分を紙面に出していきたい」
そう話すのは、同紙編集長の木村ナオヒロさんだ。彼自身も高校卒業後から長年、ひきこもり生活をしていた過去を持つ。大学受験失敗や親との軋轢などから精神が不安定になり、約9年も外の世界と接点を持たないようになってしまった。
「けど、約2年前にひきこもり研究の第一人者である斎藤環先生のカウンセリングを受けて、自分がひきこもりなんだと受け入れることができたんです。それまでは自分がひきこもりだとすら思ってもいなくて。受け入れてからだんだんと、前に進めるようになった」
暴力的支援団体への怒りが、創刊のエネルギーになった
1
2
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ