女性自衛官の壮絶な苦労の歴史「女性用トイレも更衣室もなかった」
「自衛隊ができない30のこと 30」
女性自衛官の凛とした立ち振る舞いを様々な場面で目にすることがありますが、同じ女性として「かっこいいなー」と憧れてしまいます。
現在では防衛大学、防衛医大、幹部候補生学校、一般曹候補生、任期制自衛官、航空学生等を含むほぼすべての領域で、女性も採用試験を受験できるようになりました。女性が自衛官になる道は開かれています。自衛隊のイベントで女性自衛官がいないことなどはほぼ皆無、潜水艦の部隊でも潜水艦救難艦には女性自衛官がいる時代なのです。しかし、ここに至るまでには様々な壁を打ち破ってきた女性たちの存在がありました。
女性の職場とされていた看護師のような職域以外に女性自衛官が登用されたのは、昭和49年の女性自衛官制度が始まりでした。当時は婦人自衛官という名前だったそうです。「女に軍人が務まるわけない!」という風潮がある中で任官した女性たちが大変な苦労したことは容易に想像がつきます。当時は社会全体に女性の職場進出への偏見があった時代です。純粋に男だけの職場だった自衛隊ではどうだったのでしょうか。
その草創期に自衛官となり、様々な「女性で初めて」を海上自衛隊の歴史に刻んできた草分け的な存在、元一等海佐の竹本三保さんにお話を伺うことができました。
巷ではパワハラ、セクハラが話題となっていますが、「もう昔の話だから」とにっこり微笑みながら話してくださった内容は、まさに身一つで男性の職域に斬り込んでいった女性たちの静かで壮絶な戦いの歴史でした。
竹本さんが自衛官になった当時は女性を受け入れる体制は全くできておらず、更衣室もありませんでした。当時は男性ばかりの職場でしたから、男性自衛官も職場の隅のロッカー前で着替えていたそうです。もちろん、トイレも男子用のみ。「男性トイレにすたすた~っと入ると、中にいた男性自衛官達がぎょっとなるので逆に申し訳なかった」と話す竹本さんは当時から肝が据わっていたようです。もちろん、今は女性のいる現場ではおおむね女性用のトイレや更衣室、居住スペースが完備されています。
女性自衛官にとって人生の大きなターニングポイントはやはり結婚と出産だろうと思います。特に幹部自衛官は女性でも1~3年で異動があり、全国規模で常に引越を続ける生活です。竹本さんも結婚当初は別居生活でしたし、実家や保育園などの施設に子供さんを預けながらの子育てだったそうです。
子どもを預けてでもしっかり仕事をしたいと考えているのに、上司からは連日「竹本辞めろよ!」と言われたのだそうです。その指揮官に「そのお言葉は、指揮官としてのお言葉ですか?」と尋ねたところ、「人の子の親としてだ」と言われ、こんなに一生懸命仕事をしているのにどうして理解してもらえないのだろうと感じたそうです。後日、その「辞めろ」と言い続けた上司が、仕事上のミスもない竹本さんに最低の勤務評価を付けていたことを知ります。その後の昇進もこの時の勤務評価の影響を受けていたのです。当時はまだそんな価値観がまかり通るような時代でした。
さらに、自衛艦隊司令部という作戦本部に異動になり、上司に挨拶しに行った時には「俺は男女区別なく扱うから、しっかり仕事してくれ。だから、俺の目の黒いうちは、絶対子供を産ませないからな!」と宣言され、目が点になったこともあったようです。たとえ将来を期待してのことだったとしても、上司の発言は今なら訴えられるレベルのものかもしれません。その後、第二子を妊娠した時、訓練中に具合が悪くなり報告したところ「今、休まれたら困るな」と一言言われたのみで、結果としてそのお子さんを流産してしまったことも『任務完了』(並木書房)という本に淡々と書き記されています。
子どもを産む性である女性が厳しい職場でその職務をやり抜こうとする場合、本人の努力だけではどうすることもできないことがあります。竹本さんの場合は子供を預かってくれたご家族・ご親戚の協力、そして周囲の環境に奇跡的に恵まれたことも大きな要因だと思います。保育園の送り迎え時間に困っていた時に、「近くに自衛官をご主人に持つとてもいい人がいるから」とお子さんを預かってくれる人を紹介されたのです。
女性自衛官のスタートは昭和49年
女性用のトイレも更衣室もなかった
「絶対子供を産ませないからな!」
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おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot
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『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』 日本の安全保障を担う自衛隊員が、理不尽な環境で日々の激務に耐え忍んでいる…… |
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