ファン・ビンビンに続いて、孟宏偉・ICPO総裁も標的に…過激さを増す習近平の「反腐敗闘争」
トラ(共産党幹部)もハエ(地方の役人)も、さらには、キツネ(海外に高飛びした腐敗分子)も叩く――。政権発足以来、習近平(シーチンピン)国家主席が強力に推し進める「反腐敗闘争」の一環として、著名人を見せしめに摘発することは理解できるが、なぜ、このようなスパイ小説さながらの「失踪劇」が繰り広げられているのか? 中国政治に詳しい東京福祉大学・国際交流センター長の遠藤誉(ほまれ)氏が話す。 「そもそも中国では、令状を発行するなど適正な法手続きを踏まなくても逮捕は可能で、弁護士はおろか家族と会うことすら保障されていません。つまり、こうした謎の失踪劇は著名人に限らず中国ではよくあることなのです。 習主席は3月の全人代で、党員の規律を管轄する中規委(中央規律検査委員会)と国務院(政府)にある国家監察部を合併し新たに国家監察委員会を創設したのを機に、汚職の取り締まりをさらに強化した。国家監察委は政府と党の監視機構を一体化し格上げしたもので、最高人民法院や最高人民検察院と並ぶ中国の最高監察機関。絶大な権限が与えられ中国全土に網を掛けているので、一度、標的にされたら“蒸発”するしか道はないということです」 国家監察委のトップ、楊暁渡(ヤンシャオドゥ)主任は、反腐敗闘争を主導してきた習主席と王岐山(ワンチーシャン)副主席がもっとも信頼を置く秘蔵っ子として知られている。王副主席が中規委を率いていた時代には、王氏の懐刀として、習主席のライバルで’12年に汚職事件で失脚した周永康(ジョウヨンカン)・元中国共産党中央政治局常務委員の摘発に尽力。反動分子の封じ込めに奔走した。 ただ、ICPOの総裁を中国国内の“お家事情”で訴追したとしたら、対外的なイメージ悪化は避けられないだろう。中国公安省も「周永康の残党を徹底的に粛正する」との声明を出しており、周氏に近かった孟氏が、権力闘争に巻き込まれたという見方が大勢を占めているからだ。だが、遠藤氏は「今回の事件は権力闘争ではない」と一蹴する。 「中国共産党にとって一番大事なのは、一党独裁体制の堅持と人民の統治に尽きる。言い換えれば、共産党が恐れているのは人民であり、最大の敵は人民なのです。だから、他国からの批判など取るに足りない内政干渉にすぎない。先に“蒸発”した女優の范氷氷氏を中国人民は、トップスターだが、憧れの的ではなく、ダーティな手段で大金を稼いでいる人物と見ていた。 一方の孟氏も、国際機関のトップに立つ誇らしい存在ではあるものの、孟氏が周永康氏の元部下で、ICPO総裁の座に就けたのは中国が毎年6000万ドル超の分担金を払った結果であり、その出どころは中国人民の血税と考えている。つまり、両氏とも人民にあまり快く思われていないため、標的に仕立てやすかったということでしょう」
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