更新日:2019年01月11日 16:04
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ファン・ビンビンに続いて、孟宏偉・ICPO総裁も標的に…過激さを増す習近平の「反腐敗闘争」

 中国では汚職などの「重大な規律違反」を理由にたびたび共産党幹部が拘束されている。今年に入ってからも李克強(リークォーチャン)首相の側近だった楊晶(ヤンジン)・国務委員(副首相級)や、人民解放軍の最高指導機関である中央軍事委員会のメンバーを務めていた房峰輝(ファンフェングイ)・前連合参謀部参謀長など後を絶たない。汚職の疑いで捜査対象となった中国官吏の自殺者が年間1700人を超えているといったデータもあるが、“蒸発”させる手段はこれだけに留まらないようだ……。拓殖大学客員教授で評論家の石平(せきへい)氏が話す。 「今年7月、海南航空集団会長で大富豪の王健(ワンジエン)氏が、旅先の南フランスで記念写真を撮ろうとして転落死したが、中国では口封じのために消されたと考えている人がほとんどです。というのは、海南航空の後ろ盾が、習主席の側近中の側近で、これまで反腐敗闘争の陣頭指揮を執ってきた王岐山副主席だったから。便宜を図って会社を急成長させた見返りに、王副主席は海南航空の大株主になっており、多額のカネが動いたとされています。  事故死の現場はICPOの本部があるフランスですし、マネーロンダリングの情報が集まってくる国際機関のトップである孟氏が、王副主席だけでなく、習主席にも関係する重要な秘密を握った可能性は高い。反腐敗闘争を牽引してきた2人が自ら汚職に手を染めていたとなれば、体制は維持できなくなる」  これに先立つ’14年に米国に逃亡した一人の著名な実業家の発言もそれを裏付ける。個人資産155億元(約2550億円)を有し、北京五輪で暗躍した「闇の政商」として知られる郭文貴(クオウエンコイ)氏だ。郭氏は渡米後、自分が国家安全省の内通者であり、反腐敗闘争を取り仕切っていた王副主席も汚職に手を染めていると告発。ラジオ番組などで共産党の内部情報を暴露し続けている。 「おそらく孟氏が得た重要情報は夫人に託されているはず。夫人が暴露すれば、習政権に大きな打撃を与えることはできるものの、夫は消されてしまう。一方、習主席側も夫人に下手に手出しすれば、情報が明るみに出てしまう……。しばらくは膠着状態が続くでしょうね」  3月の全人代では習主席の任期が撤廃されており、汚職大国における粛正はますます激しくなるだろう。

<共産党幹部や著名人が関与した事件>

●2015年1月…馬建(マー・ジエン)・国家安全省次官失脚事件 馬国家安全省次官が、北京五輪で暗躍した「闇の政商」として知られる実業家・郭文貴氏と手を組み、職権を利用して郭氏の「商売敵」を拘束。見返りに6000万元(約9億8000万円)の賄賂を受け取り、NYへ留学した娘の家賃も肩代わりしてもらっていたという。馬氏は失踪後、しばらくして党籍剝奪が発表されたが、周永康事件にも関与したと見られる ●2017年1月…「大富豪」・肖建華(シャオ・ジエンホア)氏失踪事件 400億元(約6500億円)の個人資産を有する投資会社「明天控股有限公司」創業者の肖建華氏が、香港セントラルのフォーシーズンズホテルにいたところ、突然、数十人に取り囲まれ連行された。この事態を受け、肖氏が会長を務める明天のツイッター公式アカウントは「現在、海外で療養中だ」などと声明を出したが、なぜかその直後に明天のアカウントが削除される事態に……。しばらくして、香港系メディアが身柄拘束の事実を報じた ●2017年4月…「闇の政商」・郭文貴氏 ラジオ放送中断事件 曽慶紅(ツェン・キンホン)国家副主席の後ろ盾で個人資産155億元(約2516億円)を築いた「闇の政商」・郭文貴氏は、上記の馬建失脚事件後、身の危険を感じ米国へ逃亡。自身が国家安全省などに協力し海外に駐在する腐敗官僚の情報提供を行っていたことや、王岐山副主席が汚職に手を染めていると訴えるなど、共産党の内部事情を次々と暴露した。’16年に孟宏偉氏がICPOのトップに就任したことを機に国際指名手配リストに加えられたが、これに対抗して、郭氏は米国営ラジオ「ボイス・オブ・アメリカ」に生出演。当初は3時間の告発インタビューが放送予定だったが、なぜか、開始から1時間で突如放送が中断……。何らかの圧力があったのは明らかで、後に番組スタッフ3人が解雇された ●2018年2月…楊晶・国務委員(副首相級)失脚事件 李克強首相を支える国務院秘書長も兼務していた楊晶・国務委員が、上記の「大富豪」・肖建華氏に便宜を図り、巨額の利益を得ていたことが明るみに。重大な規律違反があったとして職を追われた。楊氏は、李首相が中国共産主義青年団のトップを務めていた時代から李首相の部下として働いていたため、習近平国家主席と李首相との間で水面下のせめぎ合いがあるとも見られている ●2018年1月…房峰輝(ファン・フェンフイ)・人民解放軍統合参謀部参謀長失脚事件 ’17年11月にも張陽・前中央軍事委員会政治工作部主任が自殺したが、房氏は、胡錦濤指導部時代の軍制服組トップを務めながら汚職で失脚した徐才厚事件への関与が追及されている ●2018年9月…女優・范氷氷氏脱税訴追事件 ハリウッドでも活躍する范氏が「二重契約」をして脱税している、と中国中央テレビの元アナウンサーがSNSで告発。その後、范氏が消息不明となったことで騒ぎが大きくなったが、10月3日に追徴課税や罰金などで合計億8000万元(約146億円)の支払いを命じられたことが報じられ、范氏も微博を更新し謝罪した

習近平国家主席が考える米国を超える覇権構想

 今回の孟宏偉氏を巡る騒動は、報道では「権力闘争」が原因とされている。しかし、遠藤氏は「習主席は米国に打ち勝ち覇権を握れば、人民も共産党を支持すると考えている。腐敗撲滅運動は人民の不満を拭い去り、党への求心力を高めるためのもの。国家主席の任期延長や国家監察委の創設は権力闘争のためではないのです」と分析する 写真/AFP=時事 Imaginechina/時事通信フォト
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