新型コロナでテレワークが急拡大。“出社不要”は本当に定着するのか?
経済活動にも大打撃を与え始めている新型コロナウイルス禍。感染拡大を防ぐための「イベント中止」「全校一斉休校要請」に加え「テレワーク導入推進」と大ナタが振るわれた日本。この有事で働き方は変わるのか。
日本の歴史には、しばしば黒船が襲来し、そのたびに国の変革を促してきた。大陸から押し寄せた新型コロナウイルスも我が国の在り方を大きく変えるのだろうか。
現在、感染拡大を防ぐための非常の措置として、在宅での労働を許す「テレワーク」を導入する企業が増えている。本来はオリンピック期間中の都内の混雑を避けるため、大企業各社は今年7~8月にかけての実施を予定していたが、思わぬ“外圧”によって、大幅に前倒しされた格好だ。
政府は2月25日に発表した新型コロナウイルス対策の基本方針で、テレワークや時差出勤を強く呼びかけ、広告代理店最大手の電通はさっそく敏感に反応。社員の感染発覚を理由に、本社の約5000人を2月26日から在宅勤務とした。
3月5日時点では、経団連は加盟企業の7割超がテレワークを実施していると発表している。その取引先の中小企業も右へ倣えと次々に舵を切っており、日本中がテレワークに突っ走っている。
もっとも、そんな上層部の方針に振り回される形になった末端サラリーマンたちの間には困惑が広がる。記者が東京・新橋で聞いたところでは、「会社のパソコンが、持ち出せないデスクトップなのにテレワークを推奨されても困る」と嘆く声や、「会社が設置したビデオ会議システムに自分だけログインできず、やむなく会議参加者の一人と電話を繫ぎっぱなしにして乗り切った」とご立腹の声も。
それだけテレワークへの馴染みが薄いということだろう。なにしろ’17年に行われた総務省の調査ではテレワークの導入率はわずか13.9%。欧米諸国と比べると圧倒的に低かったのだ。東京工業大学環境・社会理工学院教授の比嘉邦彦教授は、日本でテレワークが浸透しない原因をこう指摘する。
「テレワークの制度自体は、多くの企業で導入済みです。しかしそれを実行する段階で、部課長などの中間管理職クラスが企業の中で反対に回る。毎日顔を合わせてコミュニケーションを取らないと部下の動向がわからないというのが言い分ですが、反対のための反対ですよ。部下の能力を把握し、適切に仕事を割り当て、成果を評価するのが管理職の務めですから、部下がどこで仕事をしていても本来は問題ないはずなんです」
しかし日本企業の対面コミュニケーションを重んじる文化は根深く、大手IT企業のメルカリでさえも、かつてはテレワークを原則禁止としていたほどだ。
「日本企業では仕事の定量評価ができていません。平均的な社員なら一日このくらいの業務をこなせるだろうという基準がないから、適切な労働時間や割り振る仕事量の管理ができない」(比嘉氏)
このように仕事量を明確化できない理由を、昭和女子大学グローバルビジネス学部長の八代尚宏教授は次のように分析する。
「過去の高度経済成長期の“なんでもやる”働き方を続けているからです。’50~’70年代は仕事が増える一方でしたから、特定の仕事しかしない労働者は企業にとっては使いにくい。一方、労働者も働けば働くほど賃金が増えていたので、この労働環境は双方にとって都合が良かった。しかし’90年代からもう30年間もゼロ成長が続いているのですから、欧米のように個人ごとに仕事の範囲を明確にしたほうが効率的です」
過去の遺物のような古い体質は評価基準の面に根強く残り、それが負の連鎖を起こしている。
「机に座っていることをもって、『頑張っている』とみなす管理職は多い。残業していれば偉いのだと。評価軸がそこにある以上は部下も出社し、残業することでアピールせざるを得なくなっています。日本企業の労働生産性が先進国の中でも著しく低いとされるのは、ここに理由があると思いますよ。管理職の仕事は部下の出退勤管理ではなく、仕事の管理であるはずです」(比嘉氏)
こうした管理職のもとでは労働者はテレワークのメリットを享受しにくい。例えば、仕事の合間に家族のための時間を入れ、それを後で補う働き方をした場合、オフィス勤務のように9~17時の拘束にはならない。その場合、労働時間の長さではなく仕事の成果を適切に評価できる管理職が必要だ。
「パソコンを使うホワイトカラーは、工場労働とは違って成果が時間に比例しない場合が多い。旧来の労務時間による評価基準は、もはや適切ではないし、また上司による一方的な評価も同様です。私はかつてOECD(経済協力開発機構)という国際機関で働いたことがありますが、そこでは上司が部下の人事評価を本人に開示し、部下もそれに反論することができました。日本も勤務時間だけではなく、多角的な評価基準を採用するべきです」(八代氏)
“外圧”で大幅に前倒しされた新たな働き方に当惑する人々
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