仕事

上野アメ横「叩き売り店」の窮状。それでも“しゃべり”で勝負する

志村商店

マスク着用でチョコレートを叩き売る志村商店長の志村さん(中央)

 咳やくしゃみの飛沫(ひまつ)を気にして、客足が遠のかないか。マスクを着けて叩き売りする姿は、コロナ禍ならではの苦心の現れだ。  東京都台東区上野のアメヤ横丁にある「志村商店」はチョコレートの叩き売りで人気を博しているが、新型コロナの影響で売り上げが激減している。叩き売りは、軽妙な語り口で客を引きつけるのだが、マスク越しでは「蒸れるし、やりづらい」と店長の志村貴久さん。夏場に差し掛かり徐々に客も戻りつつあるが、落ち込んだ収入を立て直すまでには至っていない。  コロナ前のにぎわいを取り戻すことはできるのか、志村さんに話を聞いた。

活気取り戻しつつあるアメ横…志村さん「小売業にはまだまだ」

アメヤ横丁

緊急事態宣言解除後初の週末、大勢の人でにぎわうアメヤ横丁

 緊急事態宣言解除後初の週末。JR山手線の御徒町-上野駅間の高架下に連なるアメヤ横丁は、活気がみなぎっていた。大小400店を有する商店街に立ち寄り、買い物を楽しむ人たち。飲食店では昼間から満席となり、酔っぱらい客の姿が目立つ。1カ月前には閑散としていた商店街には一見、日常が戻ってきたようにも感じる。しかし、志村さんの受け止めは悲観的だ。 「人が入っているのは、飲食店だけです。自粛していた反動でにぎわいは取り戻しつつありますが、私たちのような小売業にはまだまだ」と嘆く。経営状況は回復していない。 アメヤ横丁 お花見シーズンと5月の大型連休中は一帯がごった返す繁忙期だったが、コロナの影響で今年は閑古鳥が鳴く日々だった。売り上げは前年同期比で90%減まで落ち込んだ

根強い人気今も…女性客「叩き売り楽しむためにアメ横に来た」

志村商店 大型連休明けから、店は1か月ぶりに営業再開した。飛沫を気にする客を考慮し、マスクを着けて叩き売りをしている。取材中にも愛知県や埼玉県から来た女性客が来店し、1000円を払って叩き売りを楽しんでいた。 「これも入れちゃう、入れちゃう、入れちゃう~」  志村さんは歯切れの良い口ぶりで、部下の持つレジ袋にチョコレートやクッキーを詰めていく。わずか1分ほどで、袋はお菓子でいっぱいになった。受け取った女性は「これをやるために、アメ横に来たの」と笑顔を浮かべて店を後にした。  志村さんは、お客さんとの掛け合いを大事にしている。生まれやどこから来たのか尋ねながら、「遠くからよく来たね。サービスしちゃうよぉー」と客を喜ばせることを忘れない。
叩き売り

1000円払って叩き売りを体験。予想を超える品数にびっくり!

 筆者(私)も体験してみた。持ち帰ったお菓子を並べてみると、料金の倍以上の品数だった。志村さんは「今は在庫が余っているので、合計金額が定価3000円を超えるお菓子の量になっています」とアピールした。
次のページ
チョコレート商社にいた父が35年前に現在の形に
1
2
新聞記者兼ライター。スター・ウォーズのキャラクターと、冬の必需品「ホッカイロ」をこよなく愛すことから命名。「今」話題になっていることを自分なりに深掘りします。裁判、LGBTや在日コリアンといったマイノリティ、貧困問題などに関心あります。Twitter:@hokkairo_ren

記事一覧へ
おすすめ記事