自衛隊員の「待遇改善」なしに国の未来は語れない
その100 自衛隊員に「優しい心」を届けよう
近年、政府が「働き方改革」という政策を打ち出し、国を挙げてさまざまな職場改革が推し進められています。しかし、その流れのなかでも「自衛官の生活や職場環境、勤務時間などの改善を!」と言うと、「自衛官は賃金など気にせず喜んで働いている。心身共に鍛え抜いた誇りある人たちに対し、賃金や待遇の改善など失礼であり不要だ」と批判する人がいました。その根底には「清貧」「質実剛健」「逆境に耐えてこそ」というような精神論がありました。
でも、自衛官だって生身の人間です。私たちと同じように「欲しいもの」や「やりたいこと」、そして「守りたい家族」があります。普段いくら鍛えていたとしても、心無い言葉に傷つく「傷つきやすいやわらかな心」もあるでしょう。
海上自衛隊の幹部候補生は、半年から1年、練習艦隊で遠洋航海訓練に出かけます。集団生活に加えて見知らぬ外国での長期訓練は厳しいものです。テロや犯罪が多発するような国もあり、途中で挫折して帰国する人もいます。そんな辛い訓練のなか、ある隊員が「日本に帰ったら最初に行きたい」と夢見ていたのは「コンビニ」でした。日本製のお弁当やお菓子、店内に流れる案内や音楽、聞こえてくる日本語。無事に任務を終え帰国し、念願のコンビニに入ったとたん、屈強な彼が大泣きしたといいます。
「日本だ! 本当に日本だぁ。戻って来たぁ~~!」
周りの視線が痛くて恥ずかしかったけれど、沸き上がる涙が止まらなかったそうです。ほら、自衛隊員もごく普通の人なのです。仕事だからと我慢をし、規律正しく時には勇気を奮い起こし、職務に忠実に一生懸命働いているだけなのです。
人生は長い。職業人としてだけではなく、結婚や子供、家族、友人などと過ごすプライベートな幸せもほしいでしょう。それがなくては悲しすぎます。自衛官は機械ではありません。心無い言葉をぶつける人もいますが、応援する人もいると信じていました。
この100本の連載の間にさまざまな変化がありました。最初は「自衛官は待遇や生活問題など気にしない。そんなことどうでもいい」と切り捨てる人もいました。でも、「それでは自衛官があまりにも可哀想だ」と、6年間の国会請願で毎年3000人弱の署名があったのです。この声が政府を動かしました。
トイレットペーパーの「自腹」問題に始まり、給料の増額、引っ越し代の実費支給、災害派遣時の宿営設備の向上、予備自衛官の給料や褒章・職務資格の改善、自衛隊内の法整備など、この連載で取り上げたさまざまな問題が改善されつつあります。優しい皆様の応援に心から感謝します。
自衛官も生身の人間。清貧で誇り高い名誉職ではない
本連載を通して広がった自衛官の待遇改善
1
2
おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot
記事一覧へ
『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』 日本の安全保障を担う自衛隊員が、理不尽な環境で日々の激務に耐え忍んでいる…… |
記事一覧へ
この連載の前回記事
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ