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美人シンガーと50代バツイチおじさんのクリスマスソング制作に密着

 VOCALOID(ボーカロイド)の登場や動画配信サイトの普及により、素人でも「自分の曲」を気軽に発表できる世の中になった。そんな中、「自分の気持ちや生き様を曲として残してほしい」と、一般人向けに楽曲制作サポートをしている女性がいる。シンガーソングライターのSakiさんだ。  彼女のもとで曲作りに励んでいるのは、なんと50代の「バツイチおじさん」。なぜおじさんが曲作りを……? その裏には、孤独な中年が抱える寂しさと挑戦があった。

「Lifetime Respect -女編-」で注目を集めた美人シンガーの現在

RSP

女性ボーカルユニット「RSP」の元メンバーで、現在はボイストレーナーのSakiさん(本人提供写真、以下同)

「曲作りサポート」を行っているSakiさんは、女性ボーカルユニット「RSP」の元メンバー。「RSP」は三木道三の「Lifetime Respect」のアンサーソングで注目を浴び、2007年にはベストヒット歌謡祭と第40回日本有線大賞でそれぞれ最優秀新人賞を受賞したグループだ。グループ解散後、Sakiさんはフリーランスとして活動を開始。  メジャーレーベルで活動していた経験を活かして、現在は講師業も行っている。 「ボイストレーニングの講師を始めた頃から、一般の人向けの楽曲制作を考えていました。車だったりダイエットだったり、みんな人生のどこかでお金をかけるタイミングってありますよね。それが自分のオリジナル曲だと最高じゃないかなって。普段は言えない気持ちや自分の生きた証を、曲として世に残す。ひとつの思い出にもなるし、後の人生にも影響してくると思うんです」(Sakiさん)  講師として働き始めた1年後、「曲作り生徒」第1号となる中瀬さん(50代)が体験レッスンにやってきた。

バツイチ50代男性のひとり暮らしで孤独な日々

 中瀬さんは工場勤務のバツイチひとり暮らし。成人した息子はいるものの交流はあまり無く、孤独な日々を送っているという。  Sakiさんの体験レッスンを受けたのは、知人からの誘いがきっかけだった。 「知り合いから『あそこに有名な人がいて、ボイトレを教えている』と聞いて、一回見に行ってみようかなって軽い気持ちだったんです。ひとり暮らしで工場勤務だから、普段は誰とも喋らなくて楽しいことが何にもない。工場に行って家に帰っての繰り返しで、『なんか楽しいことないかな』って思っていました。僕は真面目というか臆病者なんですよ。だからギャンブルもお酒もしなくて、ストレス発散の方法が無かった」(中瀬さん)
中瀬さん

中瀬さん

 自らを「臆病者で冴えないおっさん」と称する中瀬さん。そんな彼にとって、Sakiさんとのボイストレーニングは運命の出会いだったという。 「先生のレッスンを受けている間は、会社のことや日々の生活を忘れられたんです。一瞬だけでも日頃の厳しさや辛さから現実逃避できた。楽しいだけの世界が広がっていて、まるで中学生に戻ったみたいでした」(中瀬さん)  体験レッスンを機にSakiさんの生徒となった中瀬さんだが、レッスン時間のほとんどを雑談で過ごしていた。その会話がきっかけで、Sakiさんから楽曲制作を提案したそうだ。 「月1回のレッスンで、中瀬さんはずっとお喋りばかりしていました。好きな音楽の話や、中瀬さん自身のこととか。喋りたいことが溜まっていたんだと思います。ボイトレレッスンなので、私としては発声や歌の練習をしたかったんですけど(笑)。彼の話を聞いていくうちに、『中瀬さんって小説に出てきそうな人だな』と感じたんです。人がすごく良くて、だからこそ貧乏くじを引いてしまうところがある。そういうところが凄く小説ぽくって、曲にしたらどうかなって思いました」(Sakiさん) 「詩とか書いてないですか?」というSakiさんの問いかけに、今までこっそり書いていた詩のメモを持ってきた中瀬さん。そこから楽曲作りの第一歩が始まった。 「いつも仕事して家に帰って黙って寝るだけの生活。今まで何も楽しいことが無かったので、曲を作ってみないかと言われた時はワクワクしました。先生が、『曲作りは人生の最大で最高の幸せな遊びだよ』って教えてくれたんです」(中瀬さん)
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「おじさん」だってロマンティックなクリスマスを過ごしたい
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福岡県出身。フリーライター。龍谷大学大学院修了。キャバ嬢・ホステスとして11年勤務。コスプレやポールダンスなど、サブカル・アングラ文化にも精通。X(旧Twitter):@0ElectricSheep0、Instagram:@0ElectricSheep0

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