“無能のポンコツ”だった元自衛官が限界集落で見つけた「僕にもできること」
2010年代から急速に広がった地方移住ブーム。コロナ禍でのリモートワーク普及も影響し、田舎暮らしに憧れを持つ人は少なくない。株式会社NTTデータ経営研究所が昨年12月に発表した「地方移住とワーケーションに関する意識調査」では、都市圏居住者の3割弱が「地方移住に関心がある」と答えるほどだ。
元自衛官の坂本治郎さんは、「日本社会からドロップアウト」して海外を放浪したのち、福岡県の限界集落へ根を下ろした。現在は知人から無料で譲りうけた古民家を活用し、ゲストハウスを営んでいる。
自衛隊、ひいては日本社会に馴染めなかった彼。なぜ一度は離れたはずの日本に戻り、田舎で生きていこうと決めたのか。
「僕は子供の頃から勉強ができない筋肉馬鹿でした。世の中に馴染めない“社会不適合者”で、自衛隊にいた頃は“無能のポンコツ”という立ち位置だったんです」
福岡県南部にある大刀洗町で生まれた坂本さん。4人兄弟の次男として育ち、高校卒業後すぐ自衛隊に入った。自衛官時代を振り返り、彼はこう語る。
「自衛隊に入ったばかりの頃は、すごく向上心があったんですよ。だけどその気持ちが空回りして、周りと上手くやれない部分が大きくて。努力をして組織の中で自分を高めていく人たちとは、何かが噛み合っていませんでした。だから周囲に迎合できない変わり者として迫害されていたんです」
子供の頃から空気を読んで行動することが苦手だった。さらに彼を悩ませたのは、「真面目に話を聞いているのに、内容が頭に入ってこない」という自らの特性だ。
それは成長しても変わらず、組織からは「やる気がない」と思われ叩かれる日々。生きづらさを感じながらも、職務に励んだ。転機となったのは、沖縄への転属だ。
「21歳の時、沖縄の部隊へ配属されました。そこで沖縄の美しい自然やグローバルな環境に触れたんです。休日に島を巡って旅人たちと出会うたびに、心をすごく刺激されて。自分もいろんな国に行ってみたいと思い、連休を使って23歳で初めて海外旅行をしました。今思えば、大したことではありませんが……当時の自分には、大きなチャレンジでした」
休暇を利用して訪れた台湾で、坂本さんは海外の魅力を知る。目に映るすべてが新鮮で、「堅苦しいことから解き放たれた感覚がした」という。
海外への憧れが高まり、帰国してからは海外移住をした人やバックパッカーのブログを読み漁った。外国人の友人を作るために、SNSの活用も始めたそうだ。
「海外の人とつながるためにFacebookを使い始めてから、一気に世界が広がりましたね。そこから沖縄のゲストハウスなどに趣味で泊まり歩くようになって。国内外のバックパッカーたちと交流しているうちに、彼らの人生観に感化されていきました。みんな経済的に豊かではないけど、楽しく自由に生きているんですよね。そういう生き方を自分もしたくなって、自衛隊を辞めて海外放浪しようと決めました」
初めての海外旅行から1年経った2010年、坂本さんは一念発起して自衛隊を退職する。家族や同僚、上官たちからは猛反対にあったという。
18歳で自衛隊に入るも「変わり者」のレッテルを貼られる
沖縄転属がきっかけで、人生初の海外旅行へ
福岡県出身。フリーライター。龍谷大学大学院修了。キャバ嬢・ホステスとして11年勤務。コスプレやポールダンスなど、サブカル・アングラ文化にも精通。X(旧Twitter):@0ElectricSheep0、Instagram:@0ElectricSheep0
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