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街のバス停にある「野良イス」。不法投棄と切り捨てられない役割とは

バス停にある、誰が置いたかわからないイス。筆者はこれを「野良イス」と名付け、300枚以上の写真に納めてきた。室内にあるべきイスが外に置かれている異物感と、不揃いな様子の可愛らしさにカメラを向けてきたのだが、この存在を見つめるにつけ、その背景には社会問題も潜んでいることがわかってきた。今回は、世界で唯一「野良イス」の写真を集めている筆者が、その魅力と、社会の中での微妙な立ち位置についてお伝えする。

野良イスの何が魅力なのか

 2016年頃、自宅近くのバス停に並んだイスを眺めていると、不揃いで可愛いと感じるのと同時に、哀愁のようなものを感じた。その根源をよくよく考えてみると、「本来の役割ではないことを頑張っている」からだと気がつく。本来は家庭やオフィスなど、”室内”で働くために作られ、どこかで、その仕事を全うしてきたであろうイスたち。  それがやがて不要になり、表に出される。受けるはずのなかった”屋外”の雨風にさらされながら、健気にそこで、第二の人生ならぬ第二のイス生を過ごしている姿が、横溢する哀愁の源だと気がついたのだ。  若い頃はホワイトカラーでバリバリと働いていた男性がおじいさんになり、今はシルバー人材サービスなどに登録して、駐輪場などで働いているあの感じ。

街が見守る存在

 また、「野良イス」という言葉は、あえて「イス」をカタカナにしている。今ではあまり見かけなくなったが、昔はどの街にも野良イヌがいた。そうした野良イヌは、人間社会と完全に切り離されているわけではなく、町の人が、気まぐれに食べ物をやったり勝手に名前をつけたりして、所有権の曖昧な存在として生きていた。  よく観察すると、野良イスも個人の所有物ではないが、バス停の利用者や近所の人が、なんとなく管理しているものも多い。その証拠に、雨風で汚れた野良イスを掃除するために雑巾などが備え付けてある野良イスを見かけることもしばしばあったり、野良イスが劣化すると新しいものと交換されているケースもよくある。    コミュニティが緩やかに管理しているという意味で、存在の仕方が野良イヌと同じであることから、文字のフォルムが近い「野良イス」としている。
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「名付け」で景色は変わる
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Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

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