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「2027年リニア開業が困難」は静岡県のせい?トンネル掘削の現場でみたグダグダ

下流は村の中心地。大崩壊地の基部に、盛り土を設置

大鹿村で行われた住民説明会。左から事業責任者の熊谷英俊村長、長尾勝副村長

大鹿村で行われた住民説明会。左から事業責任者の熊谷英俊村長、長尾勝副村長

 リニア南アルプストンネル(25㎞)の長野県側の掘削地、大鹿村で10月11日、村内の残土置き場計画についての工事説明会が開かれた。この計画は、大鹿村から排出される残土300万㎥(東京ドーム2.4杯分)のうち、27万立㎥米を小渋川の河川敷に置くというものだ(事業主体は大鹿村、施工はJR東海)。  筆者はこの残土置き場の川向の高台の集落に住んでいて、下流部の住民ではない。それでも、この計画が2018年頃から取り沙汰され始めたときには驚いた。  というのも、この残土置き場は河川敷というだけでなく、過去に大崩壊を起こして下流部への土砂崩落を防ぐために、長年にわたって林野庁が治山事業をしてきた場所(トビガス沢)の基部だからだ。下から上までみっしり作られた堰堤を対岸から望むことができる。
2027年7月には工事予定地一体は川底になった。真ん中の自然盛り土の上部に盛り土を積む

2021年7月には、工事予定地一帯は川底になった。真ん中の自然盛り土の上部に盛り土を積む

 村がこの盛り土計画を最初に筆者の地区の住民懇談会で持ち出したとき、「無茶だ」という声も出た。下流には小学校や福祉施設、村役場など村の中心施設が集中しているからだ。  当日の説明会では、下流域の住民から「小渋川上流が地滑りの巣だ」との指摘があり、反対の声が出た。記録破りの大型台風が次々にくる中、河川敷に固定物を作れば、土盛り自体が崩壊しなくても、上流の土砂災害で流路を妨げてしまうおそれがある。その結果堰止湖ができて、それが崩壊すれば被害が増すのではないかというものだ。
盛り土予定地の小渋川上部は渓谷となっていて、地滑り地帯が多く存在する。予定地のすぐ上部にある上蔵堰堤は、1959年の台風7号によって底が抜け、下流域の小渋橋で土石流が堰き止められ一帯に被害を及ぼした

盛り土予定地の小渋川上部は渓谷となっていて、地滑り地帯が多く存在する。予定地のすぐ上部にある上蔵堰堤は、1959年の台風7号によって底が抜け、下流域の小渋橋で土石流が堰き止められ一帯に被害を及ぼした

ダンプカーとのすれ違いは1分に1台以上

早朝には工事用道路でダンプカーの順番待ちの列ができる

早朝には工事用道路でダンプカーの順番待ちの列ができる

 こうした住民の不安に目をつぶったとしても、村がリニア建設事業者のJR東海にこの盛り土計画を自ら持ちかけたのは、村から隣町に出る一本道の県道を通過するダンプカーの通行量を減らすことが「環境対策」になると考えたからだ。  通勤・通学だけでなく、自家用車で山間の大鹿村から天竜川沿いの市町に買い出しに行く住民は多い。村から天竜川沿いまで出るには、一本道の県道を30分もかからないが、その間擦れ違うダンプカーの台数は毎回40台以上になっている。小渋川沿いの道は所々一車線になるため、1分に1台以上のダンプカーとのすれ違いは非常に緊張する。筆者も買い物の回数を減らした。  ダンプカーは土曜日も運行されているので、観光関係者や議会からも土曜運休の要請が出されている。しかしJR東海はスケジュールを重視して応じていない(観光シーズンに部分的に運休している)。当日も「土曜運休に期待して、それが実現すれば工事実施もやむなし」という声もフロアからあがった。生活を人質に取られ、我慢を強いられている形だ。
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開業予定の2027年まで盛り土工事が続く
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