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「2023年秋ドラマ」BEST3を中間報告。現時点で見えた“テーマの一貫性”を分析

秋ドラマが終盤に差し掛かろうとしている。全体的な傾向として良作が多いが、期待外れの作品もあり、その格差が大きい。16本あるプライム帯(午後7~同11時)の作品を中間採点し、現時点でのベスト3を決めてみたい。

①TBS『日曜劇場 下剋上球児』

(毎週日曜よる9時〜)
下克上球児

TBS番組公式HPより

 テーマは「許し」と「再生」。このテーマを表すストーリーを紡ぐため、不器用だが純粋な球児たちが配された。許しと再生をテーマにしたドラマは過去に数え切れないほどあったが、高校球児たちを通じてそれを伝えた作品はない。斬新な舞台設定だ。  三重県立越山高校の社会科教員で野球部監督だった主人公・南雲脩司(鈴木亮平)はニセ教員だった。大学で単位を取り損ね、教員資格が得られなかった。起訴こそ免れたものの、もちろん失職。物流会社への再就職までには苦労を重ね、面接を28社も受けた。  それよりも南雲を苦しめたのは周囲の冷たい目。自分を買ってくれていた丹羽慎吾校長(小泉孝太郎)は当初、対面での謝罪にすら応じてくれなかった。エース・犬塚翔(中沢元紀)の祖父で野球部の後援者・犬塚樹生(小日向文世)からは「金輪際、野球部に近づかないで!」と突き放された。  やむを得ない反応だろう。罪を犯した者に世間は厳しい。半面、そのまま許さないことが正しいことなのか。考えさせられた。罪に対する許しは創作物にとって永遠のテーマだ。  南雲の場合、まず許しに導いてくれたのは球児たち。減刑嘆願署名を集めてくれた。さらに南雲に「県大会予選で1勝したら、戻って来てほしい」と頼み、実際に勝ち、復帰の環境を整えてくれた。南雲がどの教師よりも自分たちに親身になってくれたことを肌で知っていたからだ。  リリーフ投手・根室知廣(兵頭功海)が続けて学校を休むと、南雲は2時間かけて家を訪ねた。そこで根室家の家計が苦しく、知廣が硬式用グラブを買えないことを知ると、のちに黙って自分のグラブを差し出した。

手塚治虫作品にも通じる裏テーマ

 主将だった日沖誠(菅生新樹)と弟で捕手になった壮磨(小林虎之介)たちが乱闘騒ぎを起こすと、怒らず、嫌がらず、相手側に頭を下げ続けた。ほかの教師たちが「これでまたザン高(越山高の略称)の評判が悪くなる」と、まるで他人事だったのとは対象的だった。  丹波や犬塚樹生ら大人たちに許しを与えさせたのは意外や元野球部監督の横田宗典(生瀬勝久)。定年を過ぎ、情熱を失っていたが、生徒思いの南雲と接し、熱意を取り戻した。再生した。 「南雲脩司は自分の背中を子供たちに見せようとしています。みっともない、情けない背中です。それ蹴飛ばして、何が教育者や!」(横田)  この作品は間接的な手法で「教育とは何か」も問うている。無免許の天才外科医を登場させることにより、医学とは何かを問い掛けた手塚治虫氏の『ブラック・ジャック』に通じる。  今後は自尊心や自信を一度失った南雲の再生が描かれる。それは廃部寸前だった野球部の再生劇と重なり合うはずだ。
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視聴者を納得させるリアリズム『大奥』
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放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員

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