「わかりやすい弱者には優しいのに…」高学歴なのに苦しむ“難民”たちの辛い現実
2023年10月、犯罪加害者家族を支援する特定非営利活動法人World Open Heartの代表・阿部恭子氏が『高学歴難民』(講談社)を出版した。これまで『家族間殺人』『息子が人を殺しました』(ともに幻冬舎)、『加害者家族を支援する』(岩波ブックレット)など、一貫して犯罪加害者とその周辺を題材に執筆してきた阿部氏が今回選んだテーマは現代社会をより鋭利に浮かび上がらせるものだった。
――これまで阿部さんは、犯罪加害者の家族という、社会のなかで声を上げづらい人への支援を行ってこられたと思います。その実態を多くの著書のなかで紹介されていますが、今回の『高学歴難民』は、そうした文脈でいうと、どのようなきっかけで執筆したのでしょうか?
阿部恭子(以下、阿部):ひとたび犯罪が起きると、社会の大多数のは被害者に与する見解を持ちます。被害者でも加害者でもない人が、「加害者憎し」の方へ傾くのです。そうしたなかで、加害者の家族は、自分自身が犯罪を犯したわけではなく、むしろさまざまな支援が受けられずに困っているけれども、家族ということで誹謗中傷に晒されたり、あるいは経済的に困窮したりしている「弱者」の立場にあります。しかし、それは社会で可視化されてきませんでした。いうなれば、わかりやすい弱者ではなく、声が届かない弱者だからです。
高学歴難民も同様に、一見立派な大学を卒業して、何不自由ない暮らしをしているように見えて、あらゆる場面で困っています。学歴という一点だけでみれば強者にも思えますが、実は弱者なのです。そして、犯罪加害者と同じように、声を上げづらいという構造があります。仮に世の中に「可哀想な人ランキング」があるとすれば、その上位に入ってくるのは誰がどう見ても生活が困難な人たちであって、犯罪加害者家族や高学歴難民といった“隠れた弱者”は決して入ってきません。本書は、そうした人たちの苦悩に気づいてもらいたいという思いで執筆しました。
――声の届かない弱者に対して、阿部さんが着眼したきっかけがあれば教えてください。
阿部:私の著書にはたびたび出てくるのですが、初恋の人がきっかけではないかと思っています。彼はいわゆる「高学歴難民」でした。世間でいう一流大学を出ていて、学歴的には申し分ないのですが、その実、家庭環境が複雑であり、見栄を張る性格なのでSOSが出しづらい人でした。明治時代から昭和初期にかけて、高等の教育を受けながら定職に就かない「高等遊民」という言葉が流行り、社会問題になっています。今で言う「高学歴ニート」だと思います。「人はパンのみにて生きるにあらず」――学歴よりも勉強が純粋に好きで、精神的な満足を優先して働かない人も一定数いるでしょう。
私が本書で紹介した事例や相談を受けている人々は、遊んでいるわけではなく、必死に仕事や居場所を探しています。追い詰められて罪を犯した人々さえいます。「高学歴難民」は先程の初恋の人が自嘲して発した言葉ですが、切羽詰まった彼らの状況にぴったりだと感じました。とても「遊民」とはいえません。加害者家族、交通事故の加害者となり、命を絶ってしまった人々も見てきましたが、明日、食べるものがなかったわけではなく、社会的な居場所を喪失したからです。苦しみというのは単純に比較できるものではないと思います。私は、支援は困った人の分だけ、あっていいと思います。
高学歴難民は“隠れた弱者”
「高等遊民」は今で言う「高学歴ニート」?
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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