日本は「ブレイキン」強豪国?世界2位の経験を持つ異色の弁護士ダンサーが語る
「日本人選手は、男女ともにトップクラスで、世界中の選手たちからライバル視されています。メダル獲得の可能性はともに高いと思います」
なぜ、日本人選手は強いのか。「やはり日本人は真面目に取り組むという気質がありますね。それに、技の細部まで配慮して、完成させる粘り強さも持ち合わせています。まるで細部まで丁寧に創り込まれた日本の伝統工芸のようです。例えば、’20年に世界最高峰の大会『Red Bull BC One』ワールドファイナル で史上最年少優勝をした、Shigekix(本名:半井重幸)。彼のリズムの中での難易度の高いフリーズコンボは、美しさの境地に達しています」と石垣氏。
日本のエース、Shigekixは自身も絵を描くアーティストでもある。昨秋のアジア大会では優勝し、いち早くオリンピック代表の座を勝ち取った。確かな実力と実績で、パリ五輪の金メダル候補として注目を集めている。
オリンピック代表は、日本から男女2人ずつが選出。残りの3人は、6月20日から23日にかけてハンガリー・ブダペストで行われたオリンピック予選シリーズの最終戦(2部構成の第2回)で決まった。男子の残り1枠は、Hiro10(本名:大能寛飛)が、同じ19歳のISSIN(本名:菱川一心)を凌ぐシリーズ成績を収めて確定。女子の2枠は、同シリーズで決勝まで勝ち上がったAmi(本名:湯浅亜実)とAyumi(本名:福島あゆみ)がそれぞれ優勝、準優勝に輝くと、グローバル順位でも1位と2位につけ、堂々の選出となった。
自身もダンサーとして、2000年代初頭に日本のブレイキンシーンを牽引した石垣氏。現在は、解説者や講師などでブレイキンカルチャーを支援する。同じく解説者や講師はじめ審査員などで活躍する、Ayumiの姉でB-Girl界の先駆者・梨絵(ダンサーネーム:Narumi)とは大学時代からブレイキンの練習で切磋琢磨した間柄という。
妹のAyumiは、当時から遊びに来ていたが、ブレイキンを始めたのはその後の21歳になってから。そのまま脅威の成長をみせ、今年41歳にしてオリンピック出場を果たしたことに、感嘆して語る。
「僕も大学時代はブレイキンに没頭して、毎日のように夕方から夜中の3時とか朝まで練習していましたが、Ayumiはその熱量を始めて以来、ここまで20年ずっと続けているみたいな、ちょっと信じられないストイックさです。本当にカッコいいし、尊敬しています」
石垣氏は20代の頃、日本有数のチーム「一撃(ICHIGEKI)」でブレイキン界を席巻。最高峰の大会「BATTLE OF THE YEAR」で’02年と’05年に日本王者となり、’05年の世界大会では準優勝に輝いた。ところが、ダンスにのめり込んだことで、大学卒業後も定職につかなかったため、在学時代から付き合っていた最愛の彼女に「あなたとの将来が見えない」とフラれてしまう。
しかし、彼女を諦めきれない石垣氏は、そこで一念発起。再び振り向いてもらうため、弁護士になることを決意して、ロースクール(法科大学院)への進学を経て、’10年についに司法試験に合格。彼女との復縁も果たし、見事ゴールインした。今では公私ともにパートナーで家庭円満だが、当初は一筋縄にはいかなかったという。
「司法試験に挑むにしても、僕はもともと暗記が苦手。勉強にかんしては劣等感しかありませんでした。でも、ブレイキンで柔軟性とパワーに欠けていたからこそ、アイデアと発想力という“自分らしさ”を見出して勝負した経験が活きました。これは司法試験にも活かせると気づき、創意工夫をして自分に適した勉強法を見出して、少しずつ力をつけていきました」
ブレイキンで自分の強みと弱点に向き合う経験を重ねたからこそ、弁護士になる道を切り拓くことができたと石垣氏は言い切る。
「弁護士になれたのも、ブレイキンでの礎があったおかげです。だからこそ、ブレイキンに恩返しするという意味をこめて、ライフワークとして様々な役割を担うようにしています」
現在は、ブレイキンの大会で解説を担うほか、JDSF(公益社団法人日本ダンススポーツ連盟)のナショナルチームライフコーチ、関連団体や企業などでの法律顧問やアドバイザーなどを担っているという石垣氏。ナショナルライフコーチとは、どういったことを指南しているのか。
「つまるところ、チーム全体のあり方です。心がけているのは、人として、選手としてのあり方を対話によって導くこと。なぜならブレイキンは、オリジナリティが求められます。それは、同時にパーソナリティが重視されることでもあるので、各人のあり方だったり、“自分らしさ”は何かということを問いかけるなど、対話を重視しているのです」
即興の音楽に合わせ、アクロバティックな動きや床を使ったムーブなどのパフォーマンスで競い合うブレイキン。“自分らしさ”を表す「オリジナリティ」は、オリンピック競技でも重要な審査基準の一つだ。
今夏のパリ五輪で初めて正式競技に採用されたブレイキンについて、国内外の主要大会で解説を務めるNONman(ダンサーネーム)こと石垣元庸氏は期待を寄せる。
ストイックな日本人選手の技は「伝統工芸のよう」
ブレイキンに没頭して失恋した過去も
ブレイキンとの出会いがなければ、弁護士にはなれなかった
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