“不登校の息子”に怒りを感じていた看護師の母が、退職し第二の人生を歩むまで。今では息子と一緒に「学校に潰される」と主張
不登校カウンセラー“とりまるこ”として活動する鳥丸由美子さんがTikTokに上げた動画に目を奪われた。タイトルは「学校に潰される」。次男とともに出演するそのショート動画では、メロディに合わせて「学校に行くことで潰される個性があるぜ」「同じことの繰り返し退屈なんです」など、子どもが学校に対して思う不満を余すところなく主張している。
ネットの反応はさまざまだったが、賛否でいえば「否」が多かったように思う。ある程度の我慢を学ぶことで社会性が身につくという、集団生活のメリットを謳った論調が見受けられた。どれも一定の説得力をもつが、一方で、鳥丸さんの意図したところが十分に伝わっていないように思えた。センセーショナルな表現方法によって、不登校児の気持ちを代弁したのではないかと感じたのだ。そこで、鳥丸さん本人と不登校の当事者である長男・康介さん(高校1年生)に話を伺った。
日本の教育制度に息苦しさを感じ、伸びやかに自分の考えを主張する。動画のなかの鳥丸さんは、そんな人に見えた。だが本人は、「とんでもない」とかぶりを振る。
「どちらかというと、閉塞感のある環境で生きてきました。戦前生まれの父は『俺の言うことが絶対的に正しくて、家族はそれに従って当然』というタイプの人です。母はそんな父を支え続けた人です。私は大人になったあとも、父が怖くて仕方ありませんでした。私は、看護師として大きな病院に20年近く勤務していました。看護師を志したのも、『安定した仕事に就いてほしい』という両親の願いの影響を受けています」(鳥丸さん)
意外にもしがらみのなかで生きたと話す鳥丸さん。彼女が「昔から育てにくさはあった」と苦笑いする長男の康介さんは、自分が納得しなければ何事も動かない頑固者にみえたという。孫にあたる康介さんの立場からも、父親の暴君ぶりは強烈だったという。
「祖父が何か言えば、家族でそれに逆らう人はいなかったと思います。唯一、歯向かったのは私だと思います。小学校くらいのときだったと思いますが、弟とじゃれ合っていると、そこに祖父が参戦してきました。しかし身体を押さえつけられて苦しかったので、『あっちへ行けー』と言って祖父を押し返したんです。すると祖父は逆上し、『俺にあっちいけとは何事か』と言いました。加えて、弟と2人でビンタをされました」(康介さん)
自分と異なり、権力者にも平気で歯向かう長男は、“行くべき”とされる学校への登校も拒否するようになった。鳥丸さんは彼をどのようにみていたのか。
「自分とは違うなと思っていました。康介が行きしぶりを始めたのは、ちょうど小6くらいで訪れたコロナ禍がきっかけなんです。それまでは公文式や野球などさまざまな習い事をしていました。しかしステイホームが通常になると、それが解除されてからも、彼は学校に行きたくないと言い出しました。
当時、康介に対する怒りがありました。怒りは、やるべきことをやらない彼の態度に対するものです。詳しくいえば、『自分が勤労者としても家庭人としても頑張っているのに、義務を果たさない長男が許せない』という類の感情です」(鳥丸由美子さん)
「閉塞感のある環境」で生きてきた
「学校に行きたくない」と主張する長男に対して…
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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