自治体ベースの脱法ドラッグ規制は限界がある【弁護士・小森榮氏】
脱法ドラッグに起因すると思しき、事件や事故が後を絶たない。事件にはならずとも、脱法ドラッグ吸引者が街中で奇声を上げて暴れるなどの“奇行”に走り、警察に保護されたり、救急搬送されるケースも多発している。 吸引することで人を狂わせ、果ては第三者に危害すら与える脱法ドラッグ。吸った人間は何を見て奇行に走るのか……。恐怖の実態を探った。
◆各自治体ベースで規制強化を進めるのには限界がある
「数年前までの脱法ドラッグは、海外で流行った商品が時間差で日本に入ってきていましたが、今はほとんどタイムラグがないし、国内で独自に調合された物も多い。欧米ではハーブ系よりもパウダー系の、通称『バスソルト』の乱用が目立っていますが、“新製品”は今や、ほぼ同じ時期に出回ります」
そう分析するのは多くの薬物事件を担当してきた弁護士の小森榮氏だ。’12年11月現在、厚生労働省では158種類の麻薬指定(使用、使用目的の所持も禁止)と、90種類の指定薬物(製造・輸入・販売などの規制)を設け、脱法ドラッグの取り締まりを強化している。ただ、小森氏はこう指摘する。
「現状では、脱法ドラッグ吸引者が騒ぎを起こしても警察は保護するしかない。要はアルコールと同じです。運転に関しても、脱法ドラッグの吸引状態は、法律上、『酒気帯び』と同じ規定で処分される」
東京都は’05年に「東京都薬物の乱用防止に関する条例」を制定し、対策を講じてきた。しかし、脱法ドラッグに関する事件や事故は全国に拡散。今年に入り、愛知県が10月16日に脱法ドラッグ規制条例を施行し、大阪府が10月に議会で可決するなど、各地で対策に追われているのが現状だ。小森氏も、「自治体による規制の格差はかなり大きい」と話す。
「愛知や大阪などの大都市圏では独自の規制が可能かもしれませんが、ほかの県でも同じような方向ですぐに条例ができるとは限りません。薬品の成分を特定するための設備を整えるためには、莫大な費用がかかるからです。ただ、和歌山県が独自に『製品指定』をして、違法成分を含む商品パッケージの公開を検討しているのは良案です。市民に警告が伝わりやすいので、今後の動向に注目したい」
【小森 榮氏】
東京弁護士会所属。覚せい剤事件を中心に、1000件以上の薬物事件を担当。近著に『あぶないハーブ~脱法ドラッグ新時代』(三一書房)
取材・文/脱法ドラッグ取材班
― 脱法ドラッグ吸引者が見る「おぞましき幻覚」【6】 ―
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