サッカー日本代表、オーストラリア戦はこう戦えば必ず勝てる――ブルガリア戦を振り返って考える
サッカー日本代表が5/30(木)、豊田スタジアムで行われたキリンチャレンジカップでブルガリア代表と対戦し、0対2の敗戦を喫した。この試合、日本はいつもの4-2-3-1ではなく、ザッケローニ就任以来何度か試してきた3-4-3の攻撃的な布陣でスタート。試合後多くの選手のコメントにもあったように、それは紛れもなく「点を取りにいく時の形」であり、明日6/4(火)の対オーストラリア戦のみならず、1年後に行われるブラジルワールドカップ本戦に向け戦い方の幅を広げるのが目的だったのは明らかだった。
フリーライターとして雑誌、Webメディアに寄稿。サッカー、フットサル、芸能を中心に執筆する傍ら、MC業もこなす。2020年からABEMA Fリーグ中継(フットサル)の実況も務め、毎シーズン50試合以上を担当。2022年からはJ3·SC相模原のスタジアムMCも務めている。自身もフットサルの現役競技者で、東京都フットサルリーグ1部DREAM futsal parkでゴレイロとしてプレー(@yu_fukuda1129)
立ち上がり早々にFKから失点を喫したものの、ボール支配率は日本が上回る。今回の事前合宿でも何度も繰り返し確認してきたという3-4-3のボール回しのコンセプトが浸透。相手DFラインと中盤の間に入った香川、前田らが遠藤の縦パスを引き出し、攻撃のスイッチが入る。そこに高いポジションを取った内田、駒野らも絡み、何度か相手の守備網を崩すことに成功した。香川や乾の個人技も光ったが、チームとしてうまくボールを回せていたからこそ、彼らが高い位置で仕掛けることができたと言える。同点ゴールが生まれてもおかしくない場面もあった。だが……。
結局日本は後半にも再度FKから失点し、0対2。結果として完封負けに終わった。課題とされるセットプレーからの2失点は当然修正しなければならないが、もう一つ非常に日本人らしい課題が改めて浮き彫りとなった。シュートへの積極性の欠如だ。支配率が高かったことで、本数だけで見れば14対6と積極的に打っていったように見える日本だが、欧州予選でB組2位を走るブルガリアとのシュートレンジの違いは明らかだった。日本が綺麗に崩そうとボールを回すのに対し、支配率で下回ったこともあるだろうが、ブルガリアはペナルティエリア外からでも前を向けば迷わずシュートを放ち、日本ゴールを脅かした。当然、崩し切ってゴールに近い位置からフリーでシュートを打てれば得点の確率は高くなるわけだが、相手ペナルティエリア内中央などはディフェンスのプレッシャーも最もきつくなる。相手に身体を寄せられた状態でのシュートは精度を欠く上に、数本の例外を除けば、日本がシュートを打つ時にはブルガリアの選手はシュートコースを限定していた。また、ミドルレンジからのシュートが無いとわかれば中盤ではパスコースを限定していくことに集中すれば良い。「打ってみても良かったのではないか?」そんな場面がいくつかあった。
試合後、ネット上でも「日本はビビッてシュート打たなすぎ」「他人任せで無責任」といった意見が多く見られた。確かに、なかなかシュートを打たずパスを選択する姿勢を「無責任」と言いたくなる気持ちは分からないでもないのだが、むしろ原因は日本人らしい責任感の強さ、真面目さにあった。試合後、「監督の言うことを聞きすぎてた。日本人は決まりごとを忠実にこなす民族ですからね。海外なんかだと“こいつ本当に監督の話聞いてたのかな?”って奴たくさんいるし、けどそれでも点が入ればOKになっちゃう部分もあるし、考え過ぎず、(最低限の)約束事だけしっかりということで」と内田篤人が語ったように、チームとしての形に固執しすぎていた。
以前にも似たようなことが起こっている。3月のアウェーでの対ヨルダン戦、チームコンセプトにこだわりすぎたことで再三チャンスを作りながら、日本は1対2で敗れた。この時意識が強くなりすぎたのは「マイナスのボール」だった。中東勢は球際やボールへの執着心が強い一方で、外から入ってくるボールに対してボールウォッチャーになる傾向が強い。そこでサイドの深い位置に入った際、複数の選手をゴール前に飛び込ませつつ、それを囮にマイナスのボールを狙うのが決まり事となっていた。前半、香川とのワンツーで左サイドを突破しペナルティエリア内に侵入した清武は、シュートを打たずに香川へマイナスのボールを返した。香川がダイレクトで放ったシュートはディフェンスのブロックに遭い枠を逸れたのだが、これが最初にして最も象徴的なシーンだったと言える。試合の序盤であったことなどを考えると、リターンを受けた清武がシュートを打ってみても良かった場面だ。最終予選初戦の対オマーン戦の先制ゴールは左サイドを突破した長友からのマイナスのクロスを本田圭佑が左足で合わせたものであり、第2戦のホームでのヨルダン戦でもマイナスを狙うという意識は徹底され、長友も「(マイナスに)1枚入ってきてくれと要求していたし、得点には繋がらなかったけど何度も狙っていた」という。その成功イメージが強かったことも影響してか、アンマンの試合では“チームとしての約束事を忠実にこなす”ことに集中しすぎるあまり、ゴールチャンスを逸していた。
ブルガリア戦後のコメントを聞く限り、選手たちも前半の3-4-3でのボール回しにはある程度の手応えを感じていたようだ。しかし、本来の目的は点を取ることであり、そのためのボール回しだ。ボールを回すことが目的ではない。基本的な形は共有しつつも、状況に応じて各自の判断でプレーを選択し、最もゴールの確率が高いプレーを選ばなければならない。「真面目になり過ぎてるから、あとちょっと弾ければね。負けていいわけないし当然反省は必要だけど、良い意味で気にせず」という内田のコメントが、現状を最も的確に捉えているように思える。
攻守両面において、責任感が強いのは日本の長所でもある。南アフリカW杯ではそれが良い方に出たことで、戦前の予想を覆しベスト16入りを果たした。選手個々の任務をまっとうしようとする責任感の強さ。その長所を基盤にしたうえで、内田が言うように“あとちょっと弾ける”ことができるか。明日、是が非でも勝ち点3が欲しいオーストラリアは、背水の陣で日本に向かってくるだろう。本気のオーストラリアを相手に、日本はどこまで殻を破れるのか。
― あの試合がザックジャパン飛躍のきっかけとなった ―
後にそう呼ばれるような一戦になることを期待したい。 <取材・文/福田悠>
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